紅き竜と契約したら最弱王子から一夜にして最恐魔王へ!?王国の未来も俺の人生も大混乱なんですけど!?
和水
第1話 最弱王子、裏庭で三度転倒する
「……はぁ。今日も俺は最弱だな」
王城の裏庭。
朝露に濡れた芝の上で、第三王子レオン・グランベルグは、木剣を両手に構えていた。
王族の務めとして、毎朝の日課は剣術訓練。だが、彼の場合、修行というよりも――
「ふんっ、はっ……ぐあっ!?」
バランスを崩したレオンは、勢いよく後ろにすっ転んだ。
木剣は宙を舞い、芝生に突き刺さる。
――これで三度目である。
「おい見ろよ、また転んでるぜ」
「王族の恥だな、あれが」
近くで訓練中の兵士たちが、ヒソヒソと笑い合う声が耳に届く。
レオンは聞こえないふりをしたが、耳までしっかり赤くなっていた。
(……わかってる。俺は“できない王子”なんだ)
王家の男子は四人。
長兄アレクシスは剣術大会十年連続優勝。
次兄カイルは天才魔術師で、王国最強のバリア魔法を操る。
末弟ルークは十歳にして剣と魔法を操る神童。
――そして、三男レオン。
剣も魔法もからっきし、文官としての勉強も苦手。
兄弟からは「お荷物」、宮廷からは「最弱王子」と陰で呼ばれていた。
「……ちくしょう、せめて一回くらい兄上たちを見返したい……」
芝生に座り込み、空を見上げながらレオンはつぶやく。
しかし、次の瞬間――
「おーい、最弱王子ーっ!」
耳障りな声が裏庭に響いた。
現れたのは、末弟ルーク。十歳にして剣魔法両方を極めた天才児である。
「レオン兄上! 今日も転んでたでしょ! ねぇ、なんであんなに簡単にこけるの? まるで芝生と仲良しだね!」
「う、うるさいなぁ! お前に言われたくない!」
「へぇー、言い返す元気はあるんだ。じゃあ、ちょっと手合わせしよっか?」
にっこり笑うルークの瞳が、どういうわけかギラギラと輝いている。
「や、やめとく……俺、忙しいし」
「えー、逃げるんだ? “王族の義務”とか言ってたのは誰だっけ?」
「ぐっ……!」
悔しいけど、やり合ったら一瞬で地面に転がされるのは目に見えている。
レオンは木剣を握りしめたまま、必死で視線を逸らした。
すると、そこにもう一人、青いローブを着た青年が現れる。
次兄カイルだ。王国随一の魔術師にして、学術院主席を務める天才。
「レオン、また転んでいたね。芝生との親密度は、きっと王城一だろう」
「うるさいなぁ! 兄上まで!」
「……ふむ。そんなに芝生が好きなら、いっそ『芝生王子』の称号を与えてもいいかもしれないね」
「いや、いらないから!」
「ははっ、冗談だよ。まあでも、兄弟の中で君だけが唯一“普通”だからね。僕としては少し安心してるんだ」
「普通……ね」
普通という言葉が、レオンの胸に小さく突き刺さる。
(俺だって、普通じゃなくて……“すごい”って呼ばれたいんだよ)
そう思うのに、現実は何も変わらない。
それどころか、兄弟たちとの実力差は日々広がるばかりだ。
昼過ぎ、魔術訓練場に移動したレオンは、魔法書を片手に必死の形相で詠唱していた。
「……炎よ、燃え盛る焔となりて、敵を――うわああああ!?」
詠唱の途中で、魔法陣が暴発した。
ボンッという音とともに白煙が上がり、レオンの顔は真っ黒焦げになる。
「レオン様、またですか……」
ため息をつきながら駆け寄ったのは従者・リリィ。
栗色のツインテールを揺らし、呆れ顔でハンカチを差し出す。
「……リリィ、俺ってやっぱ魔法向いてないのかな」
「“やっぱ”じゃなくて“絶対”です」
「ぐはっ……!」
「でも、諦めたらそこで試合終了ですよ? ほら、レオン様は不器用ですけど、きっと何か取り柄があるはずです!」
「その“きっと”って、どのくらいの確率?」
「そうですねぇ……三万分の一くらいですかね」
「低っっ!!」
肩を落とすレオンを見て、リリィはクスッと笑った。
「でも、レオン様のいいところは、何度失敗してもめげないことですよ」
「……本当にそう思ってる?」
「はい。本気で」
その言葉が、ほんの少しだけ胸を軽くした。
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