【おとぎ話】時計台の鐘の音

天女の住む時計台

 むかしむかし。


 西の国に貧しい少年がいました。


 少年には病気のお母さんがいました。


 少年はお母さんの薬代をかせぐために一生懸命働いていました。


 毎日、日が昇る前に丘の上に向かいます。国中が見渡せるそこに建つ、高く大きな時計台。少年の仕事はその時計台のお手入れをすることでした。一日に何度も上がったり下りたりして、油をさし、よく磨きあげ、時を報せる鐘にも異常がないか見ます。


 リーン……

 ゴーン……

 リーン……

 ゴーン……


 1時間ごとにひびく鐘の音は国にとって欠かせないものであり、それが間違いなく鳴りひびくのは少年にとってもほこらしいことでした。


 時計台には天女の像がありました。


 鐘の音と共に出てくるその天女は背中の羽まで白く美しく、天に向かって祈りをささげる姿は国の人々のやすらぎにもなっていました。


「おはようございます」


 少年は時計台に上がると一番に天女にあいさつします。その体を磨きあげ、ピカピカにするのです。


「きれいになりましたね」


 祈りをささげる姿の天女に一礼すると、少年は日暮れまで働きました。


「今日も何事もなく時を報せることができました。ありがとうございます。では、今日はこれで」


 日もすっかり落ちてから、少年は天女にあいさつをして家路につきます。


「今日も鐘の音を聴くことをできたわ」

「よかったね」

「あなたのおかげよ。あなたは母さんの自慢の子ね」

「ありがとう」


 少年のお母さんは、鐘の音が響けばそれは少年が元気であるあかしと楽しみにしていたのです。


 ところで、少年の住む西の国の王さまは欲深い人でした。


「この世界のすべてをわしのものにしてやろう」


 手のなかにあるものだけでは満足しないのです。


「すべてわしのものだ。世界のすべてはわしのものなのだ」


 国民はそんな王さまにうんざりしていました。


 ある日のことでした。


「今日もよろしくお願いします」


 少年が天女の像をみがいて一礼すると、なんということでしょう、天女の像が口を開いたのです。


「こころ清き少年よ」


 少年はびっくり、腰を抜かしてしまいました。


 天女はそれでも語ります。


「私はこの地に天より降ろされました。この像に宿り、時計台に住まい、この国の善悪を見極めていました。しかし、この国の王は正しくありません。こらしめてやりましょう」


 いま、この国に兵隊はいませんでした。遠くの国を攻めるためにみんな出て行っていたのです。そのすきに、王さまに不満を持つ人たちがお城を攻めようとしているというのです。


「この国は混乱におちいり、たいへんなことになるでしょう。けれど、あなたは私によくしてくれました。さあ、母親を迎えに行き、ここへ戻ってきなさい。私があなたたちを守ってあげましょう」


 少年は走りました。


 まっすぐ。


 時計台を駆け下り、丘を下り。


 息を切らせて無我夢中で。


 お城へ。


「たいへんです! 王さまにお知らせしたいことがあります!!」


 こころのまっすぐな少年は、王さまを助けよう、国が争いになるのを止めようと叫んだのです。


 その叫びはでも、王さまには届きませんでした。


 お城の門番に少年は叩かれ、追い出されてしまったのです。


 少年は傷づいた体を引きずるようにして時計台に戻りました。


「なにをするのですか?」


 天女がたずねると、少年はなんと、その時でもないのに鐘を打ち鳴らしたのです。


「みんな、どうか目を覚まして!」


 鐘は大きく、強く、高く、国中に鳴りひびきました。


 王さまにも、お城を攻めようとした人たちにももちろん、その鐘の音は届きました。


「何事だ?」


 王さまは叫びました。


「これはきっと神のおぼしめしだ」


 お城を攻めようとした人たちは武器を下ろしました。


 少年は時計台からその様子を見て、安心しました。


「よかった……。本当に、よかった……」


 少年は横たわり目をつぶりました。痛む体はもう限界だったのです。


「もしや、あの子の身になにかあったのでは?」


 少年のお母さんはいつもとは違う鐘の音に、神に祈りました。


「ああ、あなたはやはりこころ清き人でした。どこまでも、どこまでも」


 天女は飛び立ちました。


 少年をお母さんのもとへと送り届けました。


 天女はその翼で今度は王さまのもとへ向かいました。


「あなたをとこしえの国へといざないましょう」

「おお! わしの望む、わしだけの国か!」

「はい。あなたのための、あなただけの国です」

「いいぞ! 行くぞ! 連れて行ってくれ」

「はい」


 天女は王さまをいざないました、王さまだけしかいない国へ。広い、広い国です。何でも思うがまま。何をしようと自由。その国のすべては王さまのものです。


 その国にはでも、王さま独りだけ。他には誰もいませんでした。


 王さまがいなくなった西の国は、みんなで支え合い、助け合い、戦うことをしない、幸せな国となりました。


 おしまい。

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