ROUND.25 画面の向こう側の好敵手
第二ラウンドは先ほどのお返しと言わんばかりに、今度は俺が攻めていく。
開幕ダッシュで近寄って、立って防御をするミナヅキを投げる。まだゲージが溜まっていないので火力は出ないが、きっちりコンボを繋げて画面端へ運んでおく。
地面に叩きつけられてダウンした委員長のミナヅキが、その場で即座に起き上がる。しゃがみガードでムツキの牽制技を防ぐ様子に、確かな落ち着きが見て取れた。
必殺技で牽制技のモーションをキャンセル。足元に攻撃判定を持つ炎を走らせる下段必殺技の『地走りの炎』を出すと、丁度動き出そうとしたミナヅキに刺さって仰け反った。ダッシュで寄るも少し出遅れたことが災いしてか、ミナヅキは即座にその場で体勢を直し、俺の出した追撃をガードしてしまう。
しかし、追い詰めたミナヅキを画面端から出してやる気はない。
細かく攻撃を刻み、固めを継続してしゃがみっぱなしのミナヅキを崩すべく、中段技を挟む。
カッとガードSEが響き、エフェクトが光る。
中段は通るどころか、立ち上がったミナヅキに防がれた。おいおい、これ立てるのかよ……!
硬直で動けない俺のムツキに、ミナヅキが剣を刺す。カウンターの表記と共に、ミナヅキがコンボを叩き込んでくる。レバーを後ろに倒し、ボタンを叩く。万が一、委員長がコンボを落とした際に、即座に復帰できるようにする為だ。
しかし委員長のミナヅキは、カウンター始動のコンボをきっちりと俺のムツキに入れきる。ミナヅキもまだゲージが溜まりきっていなかった為、四割程度のダメージで済んだが、今度は俺が画面端を背負う形になってしまった。
見事なまでの形勢逆転。
けれど俺の中に湧いてくるのは、楽しい楽しいという愉悦の感情ばかりだった。
ダッシュしてきたミナヅキが、2Aを起点に固めてくる。暴れたくなる気持ちをグッと堪え、ひたすら耐える。固めに弱水玉を混ぜたところで俺は斜め前に飛びあがった。それを待っていたと言わんばかりに、委員長のミナヅキもムツキ目掛けて飛び上がる。
だから俺は、二段ジャンプを用いて後方へ戻った。
空中投げを考えていたんだろう。ミナヅキは投げがスカったモーションを見せて、慌てた様にAボタンを押してパンチを振るう。しかし、落ちていく俺と軌道が噛み合わず、空ぶってしまっていた。
地に降りたミナヅキは、ムツキの追撃から身を守るべくしゃがんでいた。それを見越して出していたムツキの中段技がミナヅキに刺さる。よし、しゃがみ食らいだ!
ムツキにはしゃがみヒットからの高火力コンボルートが存在しており、当然、俺もそのコンボは習得済みだ。ゲージも溜まっており、フルコンボを決めて再び形勢逆転。
今度は俺が勢いに乗って、そのままミナヅキを攻め続ける。やはり格ゲーって勢いが大事な瞬間、あるよな!
どうにか倒しきってラウンドを取り返し、一呼吸。
落ち着け。まだ、もう一ラウンドある。
今度はお互いに様子見から始まり、一転して静かな立ち上がりとなった。
互いに牽制をしあい、様子を伺う。じりじりとラインを上げて、ミナヅキを画面端へ追いやっていく。それを嫌がり空中ダッシュで逃げようとするミナヅキを空中投げで捕まえて、一気に画面端まで追い詰めた。
追撃はせず、様子を見る。委員長のミナヅキはしゃがんだままだ。
警戒しすぎてはいけないが、下手に手を出して水月で吹っ飛ばされては敵わない。ここは慎重に行こうと『地走りの炎』を出すと、ミナヅキはそれを待っていたと言わんばかりに空中に飛び上がり、今度こそ空中ダッシュでムツキを飛び越えて画面端を脱してしまった。
しかし場所が悪い。ミナヅキが降りてきたのは、ムツキの目の前だ。俺は一番発生の速い5Aを振るう。降りてきたミナヅキにヒットして、そこからコンボに繋げていった。
攻防は続く。
同じようなやり取りを互いに繰り返し、残り体力は互いにコンボ一発圏内に突入する。一旦間合いを開けようと、ミナヅキが空中ダッシュで後方へ下がる。それを追う様に走り、俺は下から上へ竹刀を振り上げる攻撃を振った。
何度も練習した対空攻撃が、ミナヅキに刺さる。
ジャンプキャンセルで飛び、空中コンボに繋げていく。決してコンボを落としはしない。最後まで叩き込む――!
『ムツキ Win!』
画面にでかでかと表示される勝利演出とアナウンスに、俺は細く長い息を吐き出した。
まずは一勝。
先に一勝取れるかどうかは、かなりでかい。二試合分の猶予を得た俺。そして後がない委員長。そこに精神的な余裕の差がないと言えば、嘘になるだろう。……俺の場合は、だが。
委員長がそうであるとは言い切れない。何せ、本番にとてつもなく強い性質をしている。それは間違いなく天性のアドバンテージであり、ちょっとやそっとじゃ揺るがないものだろう。
……そうさ。委員長は強い。
そのメンタルも、ゲーマーとしての腕っぷしも強い。
強敵だ。
俺は今、間違いなく強敵を相手にしている。
楽しい。楽しい……ッ!
湧き上がる興奮を抑えきれないまま、再び画面に表示されたキャラ選択画面に向き合う。
残り二試合。一切の予断を許さない戦いが続く。
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