ROUND.24 三先、開始

「対戦よろしくお願いします」

「お願いします」


 互いに向かい合って、軽く頭を下げる。


 放課後。五限の授業をサボって準備を整えた部室に、委員長を迎え入れた。

 部室には俺と委員長しかいない。一応の関係者である植田も茶屋ヶ坂先輩も、三先の決着が付くまでは部室の中には入らない様に頼んである。


 入室早々、委員長は前述の言葉を口にして軽く頭を下げてきた。俺も頭を軽く下げ、それから互いに頭を上げて見つめ合う。顔を上げた委員長は、眉を八の字に寄せて少し怒ったような表情を浮かべていた。


「伏見君。いくら準備があるからって、授業サボったら駄目だよ?」

「いやぁ~、俺的には授業よりもずっと優先度高かったし?」

「駄目だよ。もうっ……、先生には保健室に行ってるって伝えておいたからね」

「悪ぃ。助かる」


 腕を組んで呆れの混じったため息を吐く委員長に向けて、両手を合わせて拝む様に頭を下げる。まぁ、保健室の先生に事実確認されたらそれまでだが、その時はその時でどうにかしよう。


「……ごめんね、伏見君。私も一緒に準備するべきだったのに」


 委員長はそう言って、今度はしょんぼりと項垂れてしまった。

 くるくると変わる表情の豊かさに思わず和みかけながら、いやいや和んでいる場合では無いのだと、あくまで勝負の前の真剣さを損なわないようにコホンと一つ小さく咳払いをした。


「それは気にしないでくれ。俺と先輩が、最高の舞台を整えたくてやった事だからな」

「……先輩?」


 あ゛。しまった。

 委員長は、茶屋ヶ坂先輩もサボって設営してくれた事を知らないんだった……。恐る恐る委員長の顔を見ると、それはもう大きく目を見開いて、どこかショックを受けている様な表情を浮かべていた。

 そりゃね……。委員長の様な真面目な生徒からすれば、二人でサボって何してんだよって話だよな……。


「つまり、伏見君は茶屋ヶ坂先輩と二人きりで過ごしてたんだ……? 授業をサボって……」

「いや、俺も先輩が授業サボる必要はないって思ったんだけどな、先輩頑固だから……言い出したら聞かなくて……」

「ふぅーん……」


 うぉぉ……、何だか委員長の反応が怖い……。

 三先を前にして、これは良くない空気なのではなかろーか……。こんな理由でサボった(しかも二人も)なんて、委員長の逆鱗に触れてしまったか――!?


 委員長の怒りをどうにか沈めねばとオロオロしている間に、委員長が大きく息を吸って吐き出す。ふぅ、と、息を吐き出す声色に少しだけドギマギしながら様子を伺っていると、にこりと笑んだ委員長と目が合った。


「後で、先輩にお礼と謝罪をしないとね。……二人が整えてくれた舞台で私、全力で挑むからね!」


 笑みに不敵さを混じらせる委員長に頷いて、俺は委員長に1P、2Pのどちらかを選ばせる。俺はどちらでも問題無いと告げると、委員長は少しだけ悩んでから1P側を選択した。


 席が決まれば後は無言だ。

 互いに席に着き、アケコンを握る。既に目の前のディスプレイには、ブラカニのオフライン対戦モードが表示されていた。キャラを選択し、ボタンを押せばいよいよ始まる。


 俺がムツキを選択すると、少しだけ間をおいて委員長がミナヅキを選択した。互いに操作スタイルは『マニュアル』で、それはつまり委員長が連打操作から完全に卒業している事を物語っていた。


 最後の一押しをして、対戦が確定する。

 対戦開始演出の直後、『Over Night. Duel!』と、もう何度聞いたかもわからないシステムボイスが高らかに響く――!



 開幕、まずは委員長がどう出るか様子を見る。

 無難なしゃがみガードを選択すると、委員長の操るミナヅキの2Bによる下段攻撃を受ける。しゃがんだ状態で、手にした剣を真横に振るリーチの長い攻撃だ。ミナヅキ側が開幕に振るとしては、間違いのない一手と言えるだろう。


 立ち上がったミナヅキが、間髪入れずに駆けてくる。投げを警戒し、俺はバックステップでムツキを下がらせるも、伸びてきた剣先に貫かれダメージを受けてしまう。ミナヅキの優秀な牽制技である、遠距離Bがムツキに刺さってしまった。

 バックステップに刺さった状態から拾われて、ミナヅキがきっちりコンボで繋げてくる。あっという間に画面端に運ばれてしまい、こちらがダウンしてしまう。

 ダウンしたムツキに向けて、ミナヅキがC版水玉を放つ。起き上がり、水玉をしゃがみガードしている俺のムツキにミナヅキが迫る。ダッシュ5Aからの微ダッシュ投げ。画面端で投げられたムツキは画面端でのコンボを決められてしまい、再びダウンしてしまった。


 今は勢いが委員長にある。

 流れを変える為に、ゲージ25パーセントを消費して吹っ飛ばし攻撃を用いた。これは全キャラ共通のシステムであり、ゲージ消費する事によりガードモーションをキャンセルして攻撃することが出来るというものだ。ガード中にいきなり動き出す為、相手には読まれにくい行動の筈だ。


 ……しかし、俺のムツキが放った吹っ飛ばし攻撃は、キンッと甲高いSEと光るエフェクトだけを残して不発に終わる。攻めの手を止めていたミナヅキに防がれてしまったのだった。


 完全に読まれていた。

 驚くと同時に、妙な納得を覚えてしまう。


 そりゃあ、一カ月猛練習をしてきた委員長だ。

 こんな吹っ飛ばしをしたくなる状況、委員長なら簡単に俺のやりたい事が読めるよなァ……!


 そこから継続して攻め込まれ、ムツキは画面端から出ることも出来ずに一ラウンド目が終了する。俺の指先は演出を飛ばそうと、自然とボタンを連打していた。画面が暗転し、第二ラウンドが即座に始まった。

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