ROUND.20 無礼たプレイ、詫びは
トーナメントの決勝まで勝ち進んだ事を示す写真と、準優勝でしたの文字がスマホに届いたのは週末の夜の事だった。先日の通話の中で話に出た、女性限定交流会で行われた大会の結果である。
委員長は着実に実力を付けている。それも驚くべき速さでだ。
女性プレイヤーの中には初代ブラナイからプレイを続けている人も少なくはない。強豪と呼ばれるプレイヤーだって少なくはないだろう。そんなメンバーの中、委員長が準優勝をもぎっとったと言うのだ。
たった三カ月前には、格ゲーのコントロールパネルすら触ったことがない女子がだ。
俺との対戦以外にも、ランクマッチに籠ったりフリーマッチで様々なプレイヤーとの対戦も始めたとは聞いていたが、その結果が如実に表れている事を感じられる。
今日の部室での対戦も、その結果だと言えるだろう。
『ミナヅキ Win!』
高らかに響き渡る勝利アナウンス。
勝ったのは委員長のミナヅキで、負けたのは俺のミナヅキだ。
「すげぇーーッ! 星ヶ丘ちゃん、とうとう伏見に勝ったじゃん!!」
「色々と噛み合った感じはある……かな?」
委員長がそろりと俺の方を向く。
今の試合内容を振り返りながら、俺は今すぐにでも自分をぶん殴りたい衝動に駆られていた。
それは何も委員長に敗北したからではない。
委員長を格下と見做し、
委員長が実力を付けていたのは明白だ。
なのに俺は、適当な牽制を振っては刺し返され、起き攻めをワンパターンなものばかりにして逆にリバサを食らい、攻守逆転でまさかの中段からこけさせられて。
油断? 違う。これは慢心だ。
いつの間にか、俺は委員長に教える立場にあるのだからと慢心していたんだ。
教える為に、敢えて手を抜くことを良しとしていたんだ……。
ふざけんな。
委員長は真剣に勝負してたんだぞ!?
対戦で指導して欲しいだなんて、委員長からは一言も言われていない。俺が勝手に教えている気になって、勝手に手を抜いたんだ。そんなのは、ただの舐めプだ。そんな行為、最もな侮辱じゃねぇか……!
真剣に取り組んでいる人に対してこんな事、許されないだろうが――!
「伏見君……?」
委員長の不安げな声にハッとして意識が戻る。
ここで黙り込んでしまっていては、委員長に余計な心配を掛けてしまう。俺はどうにか口を開くが、喉がひり付いて声が上ずりかける。違うんだ。この感情は負けた事への悔しさじゃないんだ。委員長への申し訳なさと、自分自身の愚かさへの憤りからなんだ。
「もしかしなくても、手加減、してくれてたんだよね?」
「ッ!!」
図星を突かれ、目を丸く見開く。
違う、と否定できないでいると、委員長は少しだけ寂しそうに笑った。
「気にしないで! ほら、まだまだ伏見君からすれば、私なんて初心者だから。逆に気を遣わせちゃって悪かったなぁって……」
「違うッ!」
思いもせず存外に大きな声が出てしまい、自分でも驚く。
部室内の空気が一気に冷え切ったのを肌で感じ取り、申し訳なさと恥ずかしさから、今すぐにでも逃げ出してしまいたくなる。けれども、委員長を前にしてそれは出来ない行動だった。これ以上、恥を重ねたくはない。
「手加減したんじゃない。手を抜いたんだ。委員長の事、初心者だって……
「それは……私が、初心者なのは、本当だし……ね?」
「そうじゃない……。委員長は真剣に取り組んでるんだ。なのに、俺はその真剣さを侮辱した。これは……許されない……俺が、許せない……」
自分でも、やけに面倒なことを言っている自覚はある。
俺は元々、スポーツマンシップだとか、正々堂々だとか、そんな精神性を持ち合わせている様な高尚な人間ではない。そんな意識を抱けるほどに、夢中になれるものが無かったからだ。
だからこそ、好きになったゲームの中でくらいは、そういった人間性を持ちたかったんだ。
だから俺は、自分自身の人を
委員長だからって。気になる女子だからって。どこか浮ついた気持ちで手を抜いた自分自身が許せない。
「ごめん、委員長。もう、俺は委員長と対戦する資格がない……」
アケコンを机の上に置き、席を立つ。
委員長の止める声が悲し気に響くが、俺はもう振り向くことが出来なかった。部室の扉に手を掛けた、その時。
「あーあ、情けねぇなァ。一度負けたくらいで尻尾巻いて逃げるとか、クソダッセェーッ!!!」
飛び出した植田の苛つきを隠せない声に、足が止まる。
こいつ、話聞いてねぇな? 俺は別に委員長に負けて悔しいわけじゃなくて……! そう言い返そうと振り向くと、ぎろりといつになく鋭い眼光をした植田と目が合った。
こんな険しい顔付きは初めて見る気がして、思わず気圧されてしまった。
「テメェのマイルールなんて関係ねーよ、雑魚伏見。勝負の世界には勝ち負けしかねぇ。テメェの今のムーブは、星ヶ丘ちゃんに負けて悔しいだけの雑魚にしか見えねぇなァ!!」
「ンだとテメェ……! 誰が雑魚だ!」
「お前だよ! おーまーえー! 悔しかったらなァ! 星ヶ丘ちゃんに十先申し込んで詫びろや! 雑魚伏見くゥーんッ!!」
「おーおーッ! 上等だッ、申し込んでやるよ十先くらいッ!! ……って、は? 委員長と……? 十先?」
「十先?」
それまで凍てついていた空気が、違う意味で凍り付く。
待て。詫び十先ってなんだよ、知らねぇよそんなもん――!
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