ROUND.17 近い未来への予感

 2on2大会は、俺達に勝って進んだチームの優勝で幕を閉じた。

 惜しくも決勝戦で敗れた植田は悔しさからか奇声を上げて、この後のフリープレイで絶対負かす! とリベンジを誓っている様子を見せていた。


 優勝チームに負けたとあれば、敗北に対しても仕方がないかと思える部分が少しばかり生まれてくる。悔しい! とかよりも、こういう考え方をしてしまう辺り、俺は日和見ものだよなぁ。


 大会が終わった後はフリープレイが始まり、大会の雰囲気からより一層和気あいあいとした気楽な空気が流れだす。

 最初の内は戸惑いがちだった委員長だが、白百合さんを中心とした女性勢に声を掛けられ、そこからは楽しそうに過ごす様子が見れて一安心だ。突発的な参加となったが、初めての大会が委員長にとって良い思い出になってくれたらそれで良し。


 俺も席が空いた筐体に腰を掛け、対戦を行う。いろんな人、いろんなキャラクターと気軽に対戦が出来るのが、フリープレイの醍醐味だ。……サブキャラであるミナヅキのほうが良い動きが出来ているのも、フリープレイならではの現象ということにしておきたい……。


「今日のミナヅキ、調子いいじゃん!」


 横からひょっこりと顔を出した植田が、目を逸らそうとした事実に嬉々として突っ込みを入れてくる。


「伏見さぁ、ガラにもなく緊張してたんじゃねーの? 今日のムツキ、少し動き固かったぜ!」


 こいつ……いつも画面見て無い! とか言うくせに、俺の画面は良く見てるじゃねぇか……!

 だがしかし、言われた事は事実である。恥ずかしながら委員長の手前、情けないプレイは出来ないといつもより気張ってしまっていたのだった。


「まぁな。つーか、いいから対戦入れよ」

「もちろん~! でもさ、オレ、対戦するなら星ヶ丘ちゃんとしてみたいかも!」


 植田の視線が横を向く。

 追従して先を見れば、対戦台に座って白百合さん達と楽しそうにしている委員長の姿が目に付いた。なんでだよと植田に尋ねながら視線を正面に戻すと、画面に乱入者を知らせる演出が流れる。


「だって星ヶ丘ちゃん、将来有望そうじゃん? 今から対戦して鍛えれば、絶対強くなるって~! オレが師匠になって、手取り足取り……むふふふふっ!」


 後半の妄言は知った事じゃないが、前半の言葉には俺としても思うところが無いわけじゃない。だが、何故か素直に同意する気になれず、適当に言葉を濁してしまう。

 タイミングよく対戦が始まってくれて、正直助かった。



 あ゛ー! これはヒドイ! 起き攻め対策がなにも活かされていない! 直前の植田との会話が気に掛ったとか、そんなの言い訳でしかねェ……!



 見事にカンナヅキの見えない起き攻めの前に敗北し、席を植田に譲る。後は任せろと言わんばかりの植田は、メインのシワスでは無く練習中のサブキャラ、ハクロを選択した。

 超遠距離キャラと、超至近距離キャラ。極端なこの二体を使いこなす植田の姿に、少しばかりの悔しさを覚えてしまう。


 あーあ、チクショウ。俺ももう少し器用であればなぁ。


 溜息を吐きながら画面を見ていると、不意に真横に人の気配を感じて振り向く。


「お疲れ様、伏見君」


 にこにこと上機嫌な様子の委員長がいて、急いで気持ちを切り替える。こんなグダグダしたところ、見せる訳にはいかないぜ。


「おう、お疲れ様。そっちはどうだった? 話とか対戦、出来たか?」

「うん! 皆さん優しくて、私にキャラの話やゲームのシステムの話とか、沢山してくれたんだよ! 対戦もね、沢山アドバイスくれて本当に嬉しかったぁ……」


 明らかな高揚感が籠る口振りで、どこかうっとりとした様子の委員長が語る。ブラナイトークが出来たことには素直に良かったなと思うのだが、対戦、か……。


「なぁ、委員長。もしかして、対戦しっかりやりたいとか、思ってるか?」

「うーん。まだハッキリとは言い切れないけれど、お陰様でもっと好きになっちゃったから、対戦も頑張りたいかもね」

「そっか。委員長ならきっと、すぐに強くなると思うぜ」

「そうかなぁ。――あっ、でも、伏見君と一緒なら、出来そうな気がするよ!」


 無邪気に笑む委員長に、俺は笑みを返す事しか出来なくなる。

 頼られて嬉しい。けれど同時に情けなさが湧いてくる。


(きっとじゃない。委員長は必ず強くなる――)


 今日一日で痛感したが、委員長は対戦格闘ゲーム向きの人間性をしている。

 それは何も、物覚えの良さや勤勉さといった事だけの話ではない。初めての対戦、初めて参加する大会で、まるで物怖じしない度胸。それこそが委員長最大の武器であり、格ゲーで勝つために必要なメンタルに思えてならなかったのだ。


「言っとくけど、格ゲー本気でやると性格悪くなるかもよ。相手の嫌がる事をし続けるのが格ゲーだからさ」

「そうなの? でも、伏見君も植田君も性格悪くないと思うよ?」

「そりゃ、委員長の前だから。二人で対戦してる様子見たら、引くと思うぞ」


 飛び交う罵詈雑言。

 まぁ、もちろん俺と植田の間柄だからであって、他の人にはそんな態度は絶対に取らない。けれども、少しばかり捻くれてしまう事はあると思う。何と言っても、格ゲーは明確な勝ち負けが付くゲームだ。勝つ為に遊ぶ以上、負ければ悔しい想いをするのは当然であり、心が濁る。

 

 あ、そうか。

 俺、対戦を本格的に始めて濁る委員長を見たくないのか……。


 急に真理に気が付いて、急激に恥ずかしくなる。

 喉元から出かかる奇声を抑え込んでいると、委員長がくすくすと柔く笑った。


「大丈夫! こう見えて私、かなり好戦的だから!」


 えっへんと胸を張る仕草の可愛らしさに、思わず見惚れる。

 それからその仕草に似合わぬ物言いに、たまらず吹き出してしまった。


「そっか! だったら、やっぱり委員長は格ゲー向きだな」


 いつか。そう遠くないいつか。

 このまま格ゲーを続ければ、委員長はあっという間に実力者の仲間入りを果たしてしまうだろう。


 そうなれば避けられない。

 委員長と俺が、互いに倒すべき相手になってしまう日を――。




 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


星ヶ丘『今日はチームを組んでくれて、本当にありがとうね! とっても楽しかったよ!』

伏見 『楽しかったなら良かった。毎月大会開いてるから、また気軽に参加してみてくれ』


星ヶ丘(またチームを組んで欲しい、は流石に言えないなぁ。伏見君と組んでも恥ずかしくない様に、早く上達しなきゃ!)

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