ROUND.15 向いている性格?
立って対戦相手のチームと挨拶を交わし、筐体から離れる。
それからすぐにホワイトボードの近くに立つ運営さんに声を掛け、試合結果を伝えた。運営さんが手に持った赤いマジックペンで、俺達のチーム名の真横から線を伸ばす。トーナメント表の先へ進んだ事に、俺と委員長は安堵の息を吐き出した。
「これで二回戦進出ってことだよね?」
「おう! 何とか勝てて良かったわ」
「伏見君、ありがとう! ごめんね、一人で戦わせちゃってて……」
「いやいや、他の人の倍対戦出来て、むしろありがたいっていうか。委員長こそ、やったな。目標達成の上に、起き攻めまでしてたじゃないか」
「あれね。見様見真似でやってみたんだけど、ちゃんと出来てたかな?」
「出来てた、出来てた。ちゃんとしたミナヅキのスタンダードな起き攻めだった」
「良かった~! 前に伏見君がやってたことを思い出しながら、やってみたんだよ」
お、俺の……!? それって多分、先週のゲーセンでのだよな?
思う以上にしっかり見られていたのだと、急な恥ずかしさに襲われ言葉に詰まってしまう。たまらず火照る顔を逸らして照れ隠しをしている間に、バタバタと足音を立てて寄ってきた植田が話に割り込んできた。
「星ヶ丘ちゃん、一回戦突破おめでとー! 見てたよォ! 凄いじゃん! ハクロの連携にちゃんと割り込んでて!」
「おう、そこも凄かった。しっかり水月出たな」
ワッと委員長の隣で騒ぐ植田の言葉に、つい先ほどの委員長の試合内容が蘇る。あの割り込みは分かっていれば簡単にできる部類の物ではあるが、委員長がそれをしたというのが驚きだ。
水月が出たのは二人が練習に付き合ってくれたからだと、委員長がはにかんで笑う。つられて俺と植田もはにかんでしまう。照れるぜ……!
「それに、目が慣れたのが助けになったのかも」
しかしその後に付け足された言葉に、えっ、と思わず声が出る。
目が慣れた? どういうことだ?
「ほら、私、そもそも音ゲーで遊んでいたでしょ? あれってレベルが上がると、滝の様にアイコンが流れてくるの。それのお陰で、それなりに激しい動きを目で追い掛ける事に慣れちゃって」
気恥ずかし気に委員長が笑う。
待て待て。それってもしかして、めちゃくちゃ動体視力が良いってことか? つまり一ラウンド目でハクロの動きに慣れて、二ラウンド目には目で追えていたって言うのか?
「あと、フレーム数を覚えていたのも助けになったのかもしれないね。取り合えずミナヅキのフレーム数だけは覚えおいたの」
「覚えたって、ミナヅキのフレーム全部をか?」
「一応ね。だから、発生の速いA版の水月なら割り込めるかなって」
一か八かだったとはいえ、その判断に間違いはない。委員長、技の発生の速さまで理解しているのか? この短期間で?
戸惑っているのは植田も同じで、えぇ……と弱気な声を隣で漏らしている。
「お、おかしかったかな? 私、数字を覚えるのは得意で、昔からいろんな数値を見て遊んでて。ほら、ブラカニの本にフレーム表が載ってるでしょ? 私、寝る前に毎日眺めていたの。だから、覚えちゃってて……」
あ゛-! いかん! 委員長がしょぼくれてしまっている! 俺は急いで植田と目線で合図を交わし、委員長をフォローすべく力強く頷きあった。
「いやいや、スゲェよ委員長! フレームなんて、長く遊んでるプレイヤーでも全部覚えるのは一苦労するもんなんだよ」
「ほんっとスゲェよ! オレなんてシワスのフレーム数、一つも覚えてないんだぜ!? 星ヶ丘ちゃんっ、今度俺にフレームの覚え方教えて~!」
今は委員長を励ます事が優先なので口にはしないが、フレーム一つも覚えてねぇのに上位に居るお前もスゲェよ。あと、初心者に教えを乞おうとするなよ。
「委員長、音ゲーでもすぐに高レベルの楽曲まで辿り着いたんだよな。きっと元々、目が良いんじゃないか?」
「そうかなぁ? でも、目の良さがそこまでゲームに関係するとは思えないよ」
「うんにゃ! やっぱある程度、動体視力の良し悪しは有利不利につながるとオレは思うぜィ! この視力万年1.5のオレが言うんだから間違いないっしょ!」
「いや、視力と動体視力は別モンだから」
「えーッ!? そうなの!? じゃっ、オレってば視力だけじゃなくて、動体視力も凄いってことになるじゃん……やべぇー……」
いいなぁ、コイツ。なんでもポジティブにとらえやがる。
「あははっ、私の動体視力が良いか悪いかは別としても、確かに動きを追えるっていうのは強いのかもね」
「そういうこったな。だから委員長って、意外と格ゲー向きかもしれないな。数字にも強いし」
格ゲーを構成する要素として、フレーム数というものが大きなウェイトを占めていると言うのは過言では無いだろう。数字に強いという委員長ならば、間違いなくすぐにフレームの概念を更に深く理解する事が出来そうだ。
真面目に一直線に取り組む姿勢。生来の勤勉さに素直さ。
……あれ? もしかして、委員長って本当に凄く格ゲー向きの性格だったりするのか? いやいや、でも格ゲーっていかにして相手の嫌がる事を押し付けるかって話だし。気配りの塊である委員長にそれは、合わないんじゃなかろうか。
ちらりと横目で委員長の顔を覗き込むと、既にその目は他の筐体が映し出す対戦画面に向けられていた。その瞳に確かな熱が見て取れて、どうしてか、俺は小さな胸騒ぎを覚えずにはいられなかったのだった。
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