ROUND.04 語りたい
翌朝、眠い目をこすりながら教室に辿り着く。
ヤヨイのアケモが面白く、他キャラのストーリーも気になってつい寝る間も惜しんで遊んでしまったのだ。
あんまり意識したことが無かったが、ブラナイのシナリオは相当重たい。そりゃあ殺し合いをする様なストーリーなのでどうしても血生臭さはあるのだが、殺し合いに至るまでの葛藤や苦悩、各々の抱えた宿命や運命の描き方がめちゃくちゃに上手い。と、俺は思う。
見惚れる程の綺麗なイラストと声優さんの熱演も相まって、まるで一本のアニメを見ている様な気持ちになれる。今までトレモだけしてたのが勿体なかったかもしれない。
とは言え、遊び過ぎた。眠気を堪えることが出来ずに、あくびが零れる。
「おはよう、伏見君。寝不足?」
「んあ……。おぉ、委員長。はよ。ブラナイ遊び過ぎちまった……」
ブラナイという単語に、委員長の顔に明らかな笑顔が宿る。
委員長め、もしや初代のリメイクシナリオを徹夜で読んだか?
「私も! ブラナイのリメイク版シナリオ読んだんだけど、めちゃくちゃ良かったよぉ……!」
「初代良いよな。殺し合いの勢いが良すぎるのと、全員キャラがめちゃくちゃ尖ってんのが面白いよな」
初代に関してはシステム的に古すぎるというのがあって、トレモには触れずにアケモだけを遊んでいた過去がある。だから俺も、初代の話はわりとしっかり覚えている。
「ミナヅキがまさかあんな病み系だと思わなくて、ビックリしちゃった」
「だよな~。ミナヅキとムツキのスチル見た? 俺、初見であれ見て泣きそーになったわ。怖くて」
「分かる……。なんかあれだけ凄いホラーだった……」
ミナヅキという面白れぇ男の話で盛り上がりかけて、我に返る。
俺、そんなに委員長と話す間柄じゃないンだよな。
ぶっちゃけ、一対一でしっかり会話をしたのは昨日が初めてだったりするくらいだ。そんな二人がこんな朝から親し気にゲームの話してたら、なんかこう、疑われてしまうのではないだろうか!?
……まぁ、現実はそんな心配無用なわけで。
友人に呼ばれた委員長は、またね! と、告げて颯爽と立ち去ってしまったのだった。これが現実ですよ。へい。
授業の最中、ぼーとした頭で昨日遊んだアケモの内容を振り返る。
普段はコンボとか立ち回りのことを考えるんだが、今日はストーリー面の事で頭が一杯だ。誰かと語り合いてぇ~~。委員長に声かけるか? いや、無理だろ。なんて声かけるんだよ。ブラナイ語ろうぜって? いやいや、まだ初代のシナリオ読み始めたばかりの人に、ブラエクのアケモの話してどうするんだよっての。
悶々としたまま昼休みを迎え、俺はいつも通りに弁当とブラカニ攻略本を手にして部室へ向かった。部員三人、俺達eスポ部の部室にだ。
部室のほぼ全体を占領する、巨大な長方形を作る様に並べられたクソデカ長机×四。その内の一つ、窓際の机と椅子を陣取り、弁当を広げて暫く。
「飯、飯~! 今日の弁当、エビフライ入ってんだぜー!」
弁当箱を掲げて幸せそうな顔をした
へらへらとした顔でエビフライに大はしゃぎする金髪の同級生、それが植田だ。植田はうきうきとした様子で俺の隣の席に着くと、早速弁当を広げて頬張りだした。
「ウマーい! やっぱ授業の後の弁当、美味いよなァー!」
「授業ったて、お前、授業中もシワス対策考えてたんだろ?」
「シワス対策じゃねんだ! 考えてんのはピノマン対策だよ! ほんっと、なんだよピノマン! おめーのそれはシワスでやる立ち回りじゃねぇんだっての! なんで遠距離キャラで突っ込んでくンだよ読みが適格過ぎんだよエスパーかよウ゛ァー!」
テーブルに突っ伏して植田が吠える。
派手な植田と地味な俺。結びつけるものはやっぱりブラナイだった。
植田は今、ピノマンというプレイヤーとの対戦に苦しめられている最中である。
植田の使用キャラである超遠距離キャラ、シワス。奇しくもピノマンと同キャラ対決となっているのだが、このピノマン、遠距離キャラなのにシワス本体で殴ってくるプレイスタイルを取っているのだ。
遠距離キャラのセオリーを無視した戦法が過去にないわけではない。しかしシワスは、公式側が完全遠距離特化型キャラとして使って欲しいと言う意図のもと作ったキャラなのだ。それなのに本体で殴りに来る。まさに傍若無人。
ピノマンの対戦を見ている分には楽しいが、ピノマンを相手にするのは相当精神的にも苦しいのだろう。俺よりもずっと格ゲーが上手い植田が、こうして突っ伏しているのが何よりの証拠だ。
「何でオレを配信に呼ぶんだよ、ピノマン……。オレはてめぇのフレンドだが友達じゃねぇ……」
「ログイン状態隠せばいいだろ」
「バッカ! そしたら誰がピノマンと戦うんだよ! 可哀想だろ、ピノマンが!」
「そうだな。ピノマンの相手が出来るのはお前しかいねぇな。ところで植田」
「なに? エビフライはやんないぜ!」
「いらねーよ。お前、ブラナイシリーズのアケモって全部遊んでるか?」
「アケモ? うんにゃ。全然」
「だよなー。俺も昨日、気が向いて初めてまともに遊んだくらいだし」
持ってきた攻略本を広げて、いつも見ているフレーム表とは別のページを開く。
思えば、植田とストーリーやキャラ設定について語ったことは無かったか。ちょうど今話題に上がったシワスのページを開きながら、アケモって演出凝ってて面白いんだぜと話しても、植田の反応はイマイチだった。
それからすぐに植田はページをめくり、いつも通りにフレーム表を開きながら、片手に持ったスマホで対戦動画を流し始めたのだった。
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