ROUND.03 こだわりのアーケードモード

 対戦ありがとうございました。


 いやぁ、今日もいい試合が沢山できたぜ。満足満足。

 委員長とのあれこれもあったから、今日は一日ミナヅキで対戦してみたが、まだまだ練度が低い事を痛感する。取り合えず、コンボ落とした後にグダっちまうのだけはマジでどうにかしないとな……。


 ゲーセンを後にする頃には、すっかり日も落ちていた。

 ブラカニ勢に飯に誘われたが、今日は遠慮して大人しく家に帰る。やる気がある内にコンボ練習をしておきたい。


 帰宅してすぐに夕飯を平らげ、自室に籠る。

 バイト代で揃えた各種ゲーミングな品々が鎮座する部屋だ!

 環境を整える為に、めちゃくちゃバイト頑張ったんだよ……。


 早速パソコンの電源を付けて、家庭用ブラカニを立ち上げた。愛用のアケコンを接続して、いざ開始。

 尚、パッド型コントローラーやレバーレスコントローラーが主流となったこのご時世に、俺は未だにレバー付きのアーケードコントローラーを愛用している。パットやレバーレスも試してみたが、これが一番しっくり来るのだ。


 ミナヅキでトレモを開始して暫く。

 スマホに一通のメッセージが届いている事に気が付く。表示された宛名を見て、俺は思わずボタンを押す手を止めた。


 差出人は、星ヶ丘秋帆。

 マジで委員長からメッセージが飛んで来た……!

 スマホを手に取り戸惑いながらメッセージを開封すると、そこには一通の写真と簡単なメッセージが添えられていた。


『家にあったよ! 弟が持ってた!』


 添付されていたのは家庭用『BLOOD NIGHT.eclipse』、通称ブラエクのパッケージ写真だった。

 これはブラカニの一作前に当たる作品で、三年くらい前にリリースされたものだ。ブラナイシリーズはバージョンアップ毎に安価な有料アプデ版をダウンロード販売してくれるのだが、コレクター向けにパッケージ版も出してくれている。

 委員長の弟が所持していたのはまさにそのパッケージ版であり、ブラエクはシリーズ中、随一と言えるほどにシナリオ面が充実している作品でもあった。


『弟さんGJ。最新作じゃないけど、ストーリーを楽しみたいなら良いと思う。弟さんブラナイ勢?』

『ううん。流行ってたから買ったけど、合わなかったみたい。棚に刺さりっぱなしでビックリしちゃった』


 買ったはいいものの放っておいたら、いつの間にか兄弟の方がハマっている。あるあるだな。


『それ、初代ブラナイのシナリオもリメイクで入ってるから、ブラナイ入門に超おススメ。アケモは連打でもどーにかなるから、気軽にブラナイの世界を楽しんでくれ』

『分かったよ! 早速遊んでみるね~』


 世にブラナイ勢が一人増えようとしている。なんて喜ばしい事だ……。

 しかし言われてふと気が付く。そう言えば、俺もストーリー全部は読んでないんじゃないか?


 ブラナイのストーリーは、各キャラクターに用意されたアーケードモード、通称アケモと呼ばれるモード内で展開されていく。各キャラ固有のシナリオが、八ステージ分に渡り展開されていく仕様だ。ゲームセンターの筐体で遊べるアケモをパワーアップした様な内容が用意されている。

 台詞は当然フルボイス、描き下ろしスチルも大量に用意されていて、全キャラ分見ようと思うと結構な時間がかかる。俺はとっととトレモがしたい一心でいたから、確かメインで使ってるムツキとミナヅキのアケモだけしか遊んでないような……。


 どうにも気になってしまい、ブラカニを止めてブラエクを起動する。

 ブラエク起動すんのとか、どれくらいぶりだよ。春休みに植田うえだとバグ再現して遊んだ時以来か?


 メニュー画面からアーケードモードを選択し、このゲームのメインヒロインであるヤヨイを選ぶ。肩まで伸びた黒髪の美少女キャラクター、薄幸そうな見た目に反し、素手で戦う投げ技主体のパワーファイターだ。メインヒロインらしからぬ戦闘スタイルが人気を呼んでいる。


 因みに、群像劇としての側面があるブラナイだが、シリーズ通しての主人公はムツキと言う男キャラクターだ。ツンツンと逆立った黒髪、吊り上がった眉と意志の強そうな目。手にした竹刀がトレードマークだ。

 ムツキは俺がメインで使っているキャラで、人気キャラクターのミナヅキの兄、対を成す存在として描かれている。キャラ性能としては上の下。主人公が弱いわけが無い。


 それはさておき、早速ヤヨイのアケモを始めていく。ブラエクのアケモの内容は、初代ブラナイからの続きの物語となっていた。


 血の夜と呼ばれる新月の夜。

 その夜に行われるのは、宿命を背負った十二人の少年少女達による殺し合いである。殺し合いの果てに、生き残った者だけが願いを叶える権利を手にする……ブラナイはそんなストーリーがベースにある。


 十二人のうちの一人であるヤヨイは、幼い頃から異常な力を持つ少女として孤独に生きてきた。そんな中、自分と同じ超常の力を持つムツキと出会い、ヤヨイは初めて恋を知る。初代ブラナイでは、このヤヨイとムツキの出会いが描かれていた。そして、ブラエクではとうとう二人が血の夜に出会う悲劇が描かれている。


「ごめんね、ムツキ君。私、やっぱり、人間の形をしたバケモノでしかないみたい」

「言霊って知ってるか? 言葉には力がある。だから止せ! テメェでテメェをバケモンとか言うンじゃねぇよ!」

「だって、ムツキ君。私の手、血まみれなの」


 画面いっぱいに表示される美麗スチル、声優の熱演、そして場を盛り上げるBGM。

 臨場感たっぷりな展開に、いつの間にか俺は夢中になっていた。すっかり記憶になかったが、アケモってこんなに凝ってたのか……。

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