夜のすいぞくかん

霜月あかり

夜のすいぞくかん

夜。

水族館の大きな扉がガチャン、と閉じられると――。


「さあ、はじまるよ!」

イルカが水面から飛び出し、しぶきをキラキラまき散らしました。


魚たちの夜のおまつりが、いよいよスタートです!



---


クラゲたちは、ふんわり光を灯してランプの役。

ゆらゆら揺れるたびに、床も天井も虹色にきらめきます。


「わー! きれい!」

小さな魚たちが集まって、光の中をかけぬけました。


サンマたちはスイスイ列を作って、リレー大会。

カニはカチカチはさみをならして、リズム隊。

ペンギンたちはつるつるすべって、すてきなダンス。


「ぼくらもまけないぞー!」

アザラシたちは、ぐるん! と大きな宙返り。

イルカと競争して、見ているみんなを大よろこびさせます。



---


その時、タコが大きな風船をふくらませました。

ぷくーーーっ!

「みんな、ひとつずつどうぞ!」


魚たちは大はしゃぎ。

フグまでまねして、ぷくーっとふくらんで大笑い。


「もっともっと楽しくしよう!」

今度はエビがぴょんぴょんはねて、花火のようにしっぽをはじきます。

水の中にキラキラの泡が広がって、まるで星空みたい!



---


そこへ――どーん、と大きな影が。


「ひゃあ! サメだ!」

小さな魚たちはすぐにかくれます。


サメは大きな口をあけて、近づいてきました。

みんなはドキドキ。


ところが……

「ふぁぁぁ……ねむい……」


サメは大きなあくびをして、ごろんと横になりました。


「にぎやかだな……でも、いい夢が見られそうだ」

そうつぶやいて、すやすや寝てしまったのです。


「なーんだ! びっくりさせないでよ!」

魚たちはほっとして、大笑い。



---


夜の水族館は、ますますにぎやかになりました。


カメがすいすい泳いで大きな背中をすべり台に。

小さな魚たちが「きゃー!」と声をあげて、すべって遊びます。


タツノオトシゴは、くるんと体をまげて、見事なダンス。

尾っぽでくるくる円をえがくたびに、みんなから拍手がわきました。


マンタは大きな羽のようなひれを広げて、ふわりふわり。

まるで舞台のカーテンのように、光をすくって流していきます。


「ぼくたちも忘れないで!」

イワシの群れが一斉にきらりと光り、まるで銀色の流れ星。

クラゲの灯りを映して、夜空の天の川みたいに輝きます。


――夢みたいなおまつり。

ひるまは静かで整えられた世界。

けれど夜は、海の生き物たちが自分の声をとりもどし、思い思いに遊び、楽しむ時間。


水族館は、にぎやかで自由な海そのものに戻っていきました。


---


やがて空がしらじらと明るくなり、朝のベルが鳴りました。


「そろそろおしまいだね」

クラゲの灯りがふっと消えます。


魚たちはそれぞれの場所に戻り、いつもの静かな姿に。


今日、みんなが少し眠そうに見えるのは――

夜の大冒険で遊びすぎたから、かもしれません。

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夜のすいぞくかん 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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