MDF提出報告書
提出者:アーク級次元航行艦一番艦「方舟」所属
嘱託魔法師アレン・ストームブレイド、並びにカイル・ウインドフォース
提出先:
受理者:リオ・フレイムハート中央管理官
件名
「第728世界における滅びの調査および状況報告」
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1. 調査対象世界の概況
本世界は高度な機械文明を主体とし、都市インフラから軍事技術まで大部分が機械技術によって支配されていた。
魔法技術は基盤的な形でのみ残存していたが、機械技術の急速な発展との均衡を失い、世界資源の過剰消費とエネルギー偏重が確認された。
結果として、都市機能は維持されている一方で自然環境は著しく荒廃し、均衡を欠いたまま進行する“延命”処置が世界全体を不安定化させていた。
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2. 現地での活動経緯
世界到達後、都市内部の残存住民と接触。
住民は「都市の外はもはや生きられない」との認識を強く有しており、外界への関心を完全に喪失。
都市維持機構は魔法を補助動力とした機械式の防衛機構を自動稼働状態に置き、外部者を敵対勢力と判定。
防衛機構の一部を無力化し、内部への調査を実施。
最終的に、世界資源を吸い上げる都市中枢の「制御炉」に不自然な干渉痕跡を確認。延命処置は既に限界に達しており、放置すれば崩壊は不可避であった。
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3. 二人の判断
本世界は都市の中枢機構によって“延命”されていたが、それは住民に希望を与えるものではなく、外界を切り捨て、閉鎖的に自壊を先延ばしするだけの行為であった。
よって、我々は不介入を選択。世界の終焉は既に定められており、外部からの救済は不可能と判断。
脱出に際し、残存住民の一部から「世界の外を見た者」として問われる場面があったが、希望を与えることも奪うことも避けるため、我々は沈黙を選んだ。
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4. 所見
本世界における文明の滅びは、魔法と機械の均衡を見失った結果であり、人の選択の延長に他ならない。
ただ、その過程にあった人々の暮らしや願いを軽んじることはできない。都市で出会った子供が「空の色を知らない」と言ったことが印象に残っている。
彼らが外界を見ないまま終わるとしても、それは彼ら自身の選択と、この世界が背負う結末である。
我々は記録者として、その事実を残す。
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5. 提出者署名
アレン・ストームブレイド
カイル・ウインドフォース
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リオ・フレイムハート中央管理官 コメント
報告、受理しました。
記録の筆致にあなた方の心情が滲んでいるのは、いつものことですね。ですがそれこそが、この記録の価値になると私は思います。
今回の判断は妥当でした。次の任務に備え、方舟の整備と休養を優先してください。
――リオ
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