第3話 現地活動

塔の内部は、機械の臓腑そのものだった。

無数の管が脈動し、流れるのは血ではなく世界から吸い上げられたエーテル。壁面には人型の影が点々と並び、半ば透明なカプセルに沈められている。

眼は閉じ、心臓の鼓動も聞こえない。ただ、装置が生命反応を強制的に維持していた。


「……これが延命」カイルが声を失う。

「正確には“固定”だな」アレンは低く答える。剣の刃が微かに雷を唸らせる。「命を延ばすんじゃなく、止めた瞬間を維持している」


塔の中枢へ近づくにつれ、耳鳴りは激しくなる。

(リオの言っていた“資源の異常消費”……原因はこいつか。世界の外から見えたのはエネルギー流の歪みだけ。中に来て初めて、延命装置だと分かる)


進む彼らの前に、二体の番人が立ち塞がった。両腕に巨大な機械剣を備え、全身から蒸気を噴き上げる。


「来るぞ」

「分かってる」


アレンは刃を構え、低く呟いた。

Accelerationアクセラレーション――展開」

体が跳ね、雷光が後方に尾を引く。剣を薙ぐ一閃。

Thunder Slashサンダー・スラッシュ!」


稲妻の弧が番人の胸甲を抉る。しかし、鉄の巨体はびくともしない。

「分厚いな……」


カイルが杖を突き出す。

「拘束で間を取る! Caging Bindケージング・バインド!」

無数の鎖が空間から伸び、番人の片足を絡めた。


「今だ!」

アレンは一気に跳躍。雷を刃先に圧縮する。

Lightning Bulletライトニング・バレット、連射!」

小さな雷弾が連続で突き刺さり、装甲の一点が焼き切れる。


番人が苦悶のような声を上げる。装甲の隙から赤黒い光が洩れ、制御炉心が露出した。

アレンは突撃する。

「決める――Volt Edgeヴォルト・エッジ!」

雷の刃が芯を貫き、巨体は崩れ落ちた。


「一体撃破……!」

「だが、もう一体が残ってる」カイルが冷静に告げる。


残る番人が咆哮し、両腕の剣を交差させた瞬間、膨大なエネルギーが凝縮されていく。

「……高出力砲撃か!」


アレンは即座に決断した。

「避けきれない。カイル、後ろへ!」

「アレン!」

「大丈夫だ、一撃なら持つ!」


雷を刃に収束しながら、彼は左手を突き出す。

Defensor Shieldディフェンサー・シールド!」

幾重もの六角面が展開され、迫り来る熱線を受け止めた。

衝撃が骨を軋ませ、シールドにひびが走る。

(持たない、なら――落とす)


アレンは即座にシールドを解き、残る余波をマナジャケットで受け流す。火傷のような痛みが腕を走ったが、致命傷には至らない。


「隙ができた!」

カイルが風を叩き込む。

Gale Breakゲイル・ブレイク!」

番人の体勢が揺らぎ、刃を振り下ろす瞬間を作った。


アレンは全力で踏み込む。

「雷穿――Thunder Lungeサンダー・ランジ!」

突撃の一閃が炉心を貫き、爆発的な火花が迸った。


煙が収まり、二体の番人は沈黙していた。



---


中央制御室。

そこには巨大な炉心と、それに繋がれた無数の生命維持カプセルが並んでいた。

中には老人、若者、子供――さまざまな人間が眠っている。


カイルが息を呑む。

「これ……全部、終われない命……?」

アレンは剣を下ろし、黙って見つめた。


「介入するか?」カイルが問う。

アレンは瞳を細める。

「もし俺たちが炉心を壊せば、彼らは即座に死ぬ。だがそれは“解放”かもしれない。逆に放置すれば、この世界は延命に食い尽くされ、やがて崩壊する」


二人は長く黙した。

(リオに報告すべきは、介入の是非じゃない。“終われるかどうか”だ)


アレンは剣を収めた。

「カイル、ここは記録だけ残す。俺たちは裁定者じゃない。選ぶのは、この世界の人間だ」

「……そうだね」


カイルは頷き、広域感知を展開する。

「外にまだ生きた人間がいる。彼らに伝えよう。ここがどうなっているのか」

「それが俺たちの仕事だ」


二人は塔を後にした。

灰色の空に飛び立ちながら、アレンは呟く。

「……終わりを選べること。それが、自由なんだろうな」


カイルは黙って隣を飛ぶ。

灰の空の下、二人の影は境界へと戻っていった。


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