灰の渡り鳥

まだ秘密

不自然な世界

第1話 兆候

アレン・ストームブレイドは、艦内の観測室でディスプレイに映し出された世界の軌跡を見つめていた。外は深宇宙、無限に広がる星々の間をゆっくり航行するアーク級次元航行艦一番艦「方舟」の静寂に包まれている。横でカイル・ウインドフォースが腕を組み、スクリーンに映る異世界の光景をじっと見つめる。


艦の通信回線が微かに振動し、多次元統括管理防衛軍MDFのリオ・フレイムハート中央管理官の声が艦内に響いた。

「アレン、カイル。MDFで滅びの兆候を確認した。現状、回せる船がないので、二人にその世界に降り、判断のもと適切に処置してほしい。――これが正式依頼だ。」

少し間を置き、声のトーンが柔らかくなる。

「また、世界延命のための不自然なエネルギーの流れも確認している。不老不死関連の情報を得られるかもしれない。二人にとっても悪い話ではないと思う。頼めるか?」


艦内のモニターに映るのは、滅びの兆候を示す異常エネルギーの分布図。アレンは呟く。「ここか…世界維持のエネルギーバランスが崩れている。資源の異常消費も確認できる」

カイルは方舟のセンサー出力を上げて、空間の微細な変化を確認する。「異常はある…だが、まだ住民や都市の状況は分からない」




「了解。行こう。」アレンは静かに応え、剣型のマギウスガジェットを確認する。雷撃を乗せた加速と攻撃の制御機能は問題なし。

「準備は整っている。」カイルも頷き、マギウスガジェットで周囲の観測を強化する。


次元航行フィールドのハッチが開き、二人は外界へ足を踏み出した。エーテルが体を包み、空間の感触が微かに変化する。向こうの世界の色彩が視界に広がった。乾いた大地、散らばる都市の遺構、空気に漂う薄いエーテルの匂い。


アレンは目を細めて街を見渡す。「ここは、魔法技術に対して機械技術が進みすぎているな。このアンバランスさが滅びのきっかけになった可能性がある。気を付ける必要がある。」

カイルは淡々と観測を続ける。風の流れや障害物をマギウスガジェットで把握し、アレンの補助に回る。


二人の心は静かだ。滅びは受け入れるものだ。しかし、記録を残すことは彼らにとっての儀式であり、後に来る誰かが学べる手掛かりとなる。


都市の上空へ滑空しながら、散らばる建物や消えかけた灯りを目にする。かつてここに住んでいた人々の痕跡は、時間に押し潰されながらも、微かに光を放っていた。


「さて……次は、この世界に降りて確認だ。」アレンは剣の柄を握り直す。

「任せてくれ。」カイルが応える。二人は淡々と、しかし確実に次の行動へと進んでいった。

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