第44話 皿洗いモブの矛盾
未記録の王の津波のような墨に、僕の叫びがぶつかった。
「僕は皿洗いモブとして……この世界で生きる!」
その瞬間、光が広がり、津波は霧散した。
牢の奥にいた勇者候補たちが息を吹き返し、失われかけた存在を取り戻していく。
◇ ◇ ◇
「……矛盾……!」
未記録の王が呻いた。
胸に刻まれた無数の「×」が震え、赤黒く点滅する。
「役割ヲ棄テルハズガ……居場所ヲ持ツ?
理解不能……記録不能……!」
リュカが剣を振り払い、墨のしぶきを飛ばす。
「そうだろうな。
こいつは勇者でも魔王でもない……でも俺たちと同じく“ここにいる”」
「……おかしい人ですから」
魔導書少女が冷たく補足する。
いや、言葉は鋭いけど、なんかちょっと誇らしげじゃない?
◇ ◇ ◇
影の群れが再び押し寄せる。
だが僕が「モブである」と声にしたたび、彼らは煙のように弾かれた。
まるで、僕の存在そのものが矛盾の楔になっているかのようだった。
「……そうか。
僕はこの世界にとって“いてはいけないのに、確かにいる”存在なんだ」
声にするごとに光が強まり、未記録の王の巨体に亀裂が走る。
◇ ◇ ◇
「矛盾ハ……崩壊ヲ呼ブ……
モブ勇者……オ前ハ……世界ヲ……」
王の声は途切れ、墨の身体が紙片となって崩れ落ちた。
未記録の住人たちも次々と散り、観測不能領域は静けさを取り戻した。
◇ ◇ ◇
リュカは剣を納め、肩で息をした。
「……勝ったのか?」
魔導書少女はページを閉じ、淡々と記す。
“未記録の王、崩壊。矛盾因子による拒絶により”
そしてちらりと僕を見て言った。
「あなたは、観測不能でありながら観測され続ける。
世界最大の矛盾……皿洗いモブです」
胃が痛い称号をありがとう。
◇ ◇ ◇
だが、安堵は束の間だった。
頭上に、再び“観測局の目”が開く。
王を倒したせいで、僕は完全に歴史の外へ出てしまったのだ。
◇ ◇ ◇
次回、「観測局最終宣告」
お楽しみに。
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