第31話 観測局と勇者ギルドの密約

観測局の追跡者を撃退した翌日、街は不気味な静けさに包まれていた。

勇者ギルドが巡回を増やし、人々は息を潜めるように暮らしている。

でもその裏で、もっと厄介な動きがあった。


――観測局と勇者ギルドが手を組んだ、という噂だ。


◇ ◇ ◇


「観測局……?」

リュカが眉をひそめる。

「この世界の記録を監視する連中、だったか」


「はい」

魔導書少女が頷く。

「彼らは“歴史の矛盾”を許しません。

勇者が死ねば補充するのも、魔王が増え続けるのも、すべて観測局の帳尻合わせです」


彼女の声は淡々としているのに、背筋が冷える。

つまり、僕がモブのまま歴史を乱しているのも……目障りってことか。


◇ ◇ ◇


夕方の酒場金獅子亭

噂好きの客たちが口をそろえて囁いていた。


「ギルドの上層に、黒衣の使者が出入りしてるらしい」

「勇者候補の選抜に“観測者”が立ち会うんだと」

「これで勇者はますます神話通りに動かされる……」


僕は皿を拭きながら聞き流そうとしたけれど、胃がまた痛くなる。

勇者ギルドだけでも面倒なのに、観測局まで加わるなんて。

……完全に逃げ場がなくなった。


◇ ◇ ◇


夜。

裏路地にて、ヴァルドが煙草をふかしていた。


「ギルドが観測局と組んだのは確かだ」

彼は煙を吐き出し、低く言った。

「これからは“逸脱”はすべて狩られる。

勇者も、魔王も、聖女も……そして、お前も」


「いや、僕はモブだって!」


「モブ勇者、って呼ばれてんだろ」

ヴァルドは笑いもせず、夜に消えていった。


◇ ◇ ◇


その後。

魔導書少女は僕の前でさらりと書き込んだ。


“観測局と勇者ギルド、密約成立。対象:モブ勇者、優先監視指定”


「……ねえ、これ、本当に僕そのうち消されない?」


少女はふっと微笑んだ。

「おかしい人ですから」


慰めになってない!


◇ ◇ ◇


次回、「勇者候補集団失踪事件」


お楽しみに。

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