第30話 観測局からの追跡者

路地裏で拾った古びた魔導書。

勝手にページが開いて「観測対象:モブ勇者」とか書き出す、迷惑千万な本。

……捨てたい。

でも、手を離すとまた勝手に戻ってくる。

完全に呪いのアイテムだ。


◇ ◇ ◇


翌日。

酒場金獅子亭の奥で本を隠していた僕の前に、魔導書少女が現れた。


「それ、返してください」


「返すも何も、拾っただけだ!」


「観測局はきっと取り返しに来ます。

……追跡者が来るでしょうね」


淡々と告げられた言葉に、背筋が凍った。


◇ ◇ ◇


その夜。

本当に来た。


街外れの路地に、黒衣の男が立っていた。

フードで顔を隠し、手には光る羽ペン。

ページを空に描くように走らせると、闇が裂け、そこから鎖のような文字列が伸びてきた。


「観測対象、確保する」


声は無機質で、まるで本が喋っているみたいだった。


◇ ◇ ◇


「逃げろ!」

リュカが僕の腕を引く。

路地裏を駆け抜けるが、背後から次々と文字の鎖が迫ってきた。

壁に触れた瞬間、石が記号に変わり、砂のように崩れていく。


「うわああああ!?」


「くそ……これが観測局の術か」

リュカが顔を歪める。


◇ ◇ ◇


その時、魔導書少女が立ちふさがった。

手にした自分の魔導書を開き、冷ややかに言い放つ。


「“観測対観測”。

あなたたちの記録は、ここで破棄します」


ページから光が奔り、鎖を切り裂いた。

路地裏が閃光に包まれる。


追跡者はしばらく抗ったが、やがて羽ペンを砕かれ、影のように溶けて消えた。


◇ ◇ ◇


残されたのは、僕の手の中で勝手に震える魔導書。

ページには新たな記録が刻まれていた。


『観測局、追跡失敗。対象:モブ勇者、保護下に移行』


……やめてくれ、保護下って何!?


◇ ◇ ◇


魔導書少女は本を閉じ、僕に視線を向けた。

「もう逃げられませんよ。

あなたは正式に“観測対象”です」


「僕は皿洗いだーーっ!」


夜空に叫んでも、誰も答えてはくれなかった。


◇ ◇ ◇


次回、「観測局と勇者ギルドの密約」


お楽しみに。

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