第29話 路地裏で拾った一冊の魔導書
転生者ギルドの会合は勇者ギルドに踏み込まれ、再び崩壊した。
僕は逃げ延びたが、胃が痛い。
勇者でも魔王でもないのに、どんどん物語のど真ん中に押し出されていく。
そんな僕にさらなる厄介ごとを運んできたのは――やっぱり“モブらしい偶然”だった。
◇ ◇ ◇
夜。
リュカと合流して路地裏を歩いていたとき、足元に何かが落ちているのに気づいた。
古びた革表紙。
雨に濡れてページが歪んでいる。
――魔導書だった。
「……おい、それ、下手に触るな」
リュカが慌てて制止する。
「魔導書は危険だ。魔法に選ばれた者以外が触れば、命を吸われることもある」
僕は思わず手を引っ込めた。
けれどその瞬間、魔導書の表紙がひとりでに開いた。
そして中から淡い光が立ち上った。
◇ ◇ ◇
「……あれ?」
ページに文字が浮かび上がる。
『観測対象:モブ勇者』
「おかしいな、おかしいな!? これ僕の名前じゃないだろ!」
リュカは唖然とし、
「……まさか、自動筆記の魔導書か? 所有者を選んで記録するタイプ……」
つまり、この本が僕を選んだ――?
◇ ◇ ◇
「やっぱり拾いましたか」
後ろから冷たい声。
振り向くと、魔導書少女がそこに立っていた。
「それは、かつて私が属していた“観測局”の記録書です。
おそらく流出した一冊。
まさかあなたに拾われるとは……」
彼女の視線は鋭く、しかしどこか楽しげだった。
「放棄した方がいいですよ。
あなたが持てば、歴史はますます歪む」
「じゃあ、あんたが持っていけばいいだろ!」
「いえ。観測対象本人が触れているからこそ、意味があるのです」
少女はさらりと書き記す。
“モブ、観測書を拾う。観測ループ開始”
……もう訳がわからない。
◇ ◇ ◇
リュカが深いため息をついた。
「俺と同盟を結んだだけでも面倒なのに、本まで拾うか……」
「偶然だ! 僕はただ、路地裏を歩いてただけだ!」
桶を抱えたまま、僕は絶望的に叫んだ。
……本当に、ただのモブでいたいんだけどな。
◇ ◇ ◇
次回、「観測局からの追跡者」
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます