第28話 ギルドの影と裏切りの足音

路地裏で結んだ「モブ同盟」。

握手したのは僕とリュカ、そして傍観者のように笑う魔導書少女。

小さな誓いは誰にも知られず始まった――はずだった。


だが、世の中はそう甘くない。

勇者ギルドの目はすでに街の隅々にまで伸びていた。


◇ ◇ ◇


翌朝。

市場で荷物を運んでいると、ひそひそ声が耳に入った。


「勇者ギルドが裏通りを片っ端から捜査してるらしい」

「魔王候補を匿った者は処刑だとさ」


僕は思わず大根を落としそうになった。

……処刑? 皿洗いに死刑宣告とか重すぎだろ。


◇ ◇ ◇


その夜、転生者ギルドの会合に出ると、空気が異様に重かった。

元警察官のまとめ役が声を潜める。


「内部に、勇者ギルドと繋がっている者がいる」


またか。

先日の“裏切り者”騒動が頭をよぎる。

しかし今回はもっと露骨だった。


「昨夜、我々の隠れ家が奇襲を受けた。

場所を知っていたのは、ごく限られた人間だ」


ざわめきが広がる。

疑念の視線が互いを突き刺す。


◇ ◇ ◇


「……おかしい人ですね」


魔導書少女が隣でぼそりと呟いた。

本を開きながら冷たい目で場を観察している。


「また裏切り者が出ると?」

僕が訊くと、彼女は小さく頷いた。


「ええ。足音はもう聞こえています。

勇者ギルドの影が、確実に近づいている」


◇ ◇ ◇


そのとき。

扉が乱暴に開かれ、銀の鎧が月光を反射した。


「不届き者ども! ここで捕らえる!」


勇者ギルドの兵士たちが雪崩れ込んでくる。

転生者たちは一斉に散り、逃げ惑った。


「やっぱり漏れてた!」

僕は裏口へ駆け出した。

皿洗いモブが兵士に勝てるはずがない。

逃げるしか道はなかった。


◇ ◇ ◇


夜の街をさまよい、息を切らして路地裏に座り込んだとき。

影の中から、聞き慣れた声がした。


「……生きて帰ったか」


リュカだった。

泥に汚れたマント姿で、壁にもたれている。


「ギルドが俺を探してる。

お前まで巻き込まれて、悪かったな」


「悪いのは舞台だよ。

役を押し付けられるせいで、みんな逃げ場がないんだ」


リュカは苦笑し、そして真剣な顔で言った。

「同盟は……本気で続けた方がいいな」


僕は桶を抱え直し、苦笑で返した。


◇ ◇ ◇


頭上の窓辺に腰掛ける魔導書少女が、さらさらと記す。

“転生者ギルド、再び崩壊。裏切りの足音観測”


……だから観測するなって!


◇ ◇ ◇


次回、「路地裏で拾った一冊の魔導書」


お楽しみに。

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