第25話 酒場で開かれる聖剣対策会議

聖剣ルミナスをめぐる騒動は、街全体を巻き込んでいた。

「聖剣を盗もうとした賊がいた」「魔王軍が狙っている」――噂は日に日に膨らみ、勇者ギルドも神経を尖らせている。

そしてついに、酒場金獅子亭で“対策会議”が開かれることになった。


……いや、なんで皿洗いの僕まで呼ばれてるの?


◇ ◇ ◇


夜の酒場。

中央の長机を囲んで、いかめしい顔ぶれが並んでいた。


勇者ギルドの使者。

聖女。

賢者の塔から来た研究者。

登録しない勇者ヴァルド。

そして――端っこにモブの僕。


「まず確認する。聖剣は現在も闘技場に安置されている。

だが狙う者が後を絶たない以上、防衛策が必要だ」


ギルド使者が重々しく言った。


◇ ◇ ◇


「その前に」

ヴァルドが低く遮る。

「問題は“誰に聖剣が応えるか”だ。今のところ動かしたのは……」

視線が一斉に僕に突き刺さる。

皿洗いの僕に!


「ち、違います! 抜いたんじゃなくて、滑っただけです!」


「謙虚だ……」と誰かが呟く。

やめろ、その反応。


◇ ◇ ◇


聖女が静かに言った。

「ですが事実として、あなたに応えたのは確かです。

それは神の意思か、偶然か。

けれど、無視はできません」


研究者が鼻を鳴らす。

「偶然ではないな。おそらく“異世界転生者特有の波長”が剣に反応したのだろう」


「波長?」


「外から来た者は、この世界の住人にない情報を持っている。

その干渉が剣を揺らしたのだ」


要するに――僕がモブでも、転生者だから反応してしまった。

……なんか理不尽だ。


◇ ◇ ◇


会議は紛糾した。

「勇者ギルドが管理すべきだ!」

「聖女のもとに置くべきだ」

「いや、賢者の塔で研究すべきだ」

「俺は興味ねえ」ヴァルド。


まとまるわけがなかった。


結局「警備強化」というありきたりな結論だけを残して、会議はお開きになった。


◇ ◇ ◇


片付けの皿を持ちながらため息をついた僕に、魔導書少女が近づいた。


「……また中心に立たされましたね」


「いや、端っこに座ってただけだ」


「歴史は、端に座っている人間によって揺れるのです」


彼女はさらさらと書き込む。

“聖剣対策会議、モブ出席。観測完了”


……頼むからその脚注を世に出さないでくれ。


◇ ◇ ◇


次回、「魔王候補リュカの逃亡劇」


お楽しみに。

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