第24話 聖剣を狙う者たち

聖剣ルミナスは今も闘技場に突き立てられている。

あの日、僕が「抜きかけた」せいで、街は大騒ぎになった。

……いや、本当に滑っただけなんだって。


「モブ勇者が選ばれた!」

「いや完全には抜けてない!」

「でも揺らいだのは事実だ!」


そんな噂が飛び交うたび、僕は胃を痛めていた。

そしてその噂は、やがて街の外にも広がってしまったらしい。


◇ ◇ ◇


夜の裏路地。

フードをかぶった影たちが集まっていた。

「聖剣は勇者の証。だが今、揺らいでいる」

「奪えば、人間どもの神話は崩れる」


彼らは魔王軍の密偵だった。

狙うは勇者ではなく――勇者を象徴する“聖剣”そのもの。


◇ ◇ ◇


翌日、市場で荷物を運んでいると、背後からざわめきが起きた。

「聖剣を盗もうとした賊が出たらしい!」

「闘技場の警備が強化されたぞ!」


人々が口々に叫ぶ。

勇者ギルドは慌てて兵士を増やし、夜通し聖剣を見張っているという。

……そりゃそうだろう。

勇者神話を守るためなら、命だって惜しまないに違いない。


でも、その混乱の中で、なぜか僕まで疑われていた。


「聖剣を揺らしたのはお前だろ? 次は盗みに来るんじゃないか?」

「違う! 僕は皿洗いだ!」


必死に否定する僕を見て、周囲はニヤニヤ。

……頼むから面白がらないでほしい。


◇ ◇ ◇


その夜、酒場金獅子亭

ヴァルドが渋い顔で言った。


「魔王軍も聖剣を狙ってる。勇者ギルドも神経を尖らせてる。

つまり、お前は両方にとって“邪魔な存在”ってわけだ」


「やめてよ! 僕はただのモブなんだ!」


「なら、もっと目立たないようにしろ。……もう遅いかもしれんがな」


◇ ◇ ◇


カウンターの隅で、魔導書少女が本を開いた。

「観測しました。

“聖剣は闘技場にあり。だが狙う者、数知れず”」


さらさらと書き記す音がやけに大きく聞こえた。

頼むから、その脚注に僕の名前を刻まないでくれ。


◇ ◇ ◇


次回、「酒場で開かれる聖剣対策会議」


お楽しみに。

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