第22話 モブが立ち会う勇者選抜試験
勇者は死んでも補充される。
昨日死んだ勇者アレインのあと、すぐに「新勇者」が召喚された。
……が、それでもまだ足りないらしい。
勇者ギルドは「次代の勇者候補」を決めるため、公開の勇者選抜試験を行うと発表した。
場所は街外れの闘技場。
見物自由。誰でも観戦可。
――なぜか皿洗いの僕まで駆り出される羽目になった。
◇ ◇ ◇
闘技場は朝から人だかりだった。
屋台が並び、観客は紙吹雪を撒き、まるで祭りのような雰囲気。
勇者候補たちは十数人。
転生者もいれば、この世界生まれの若者もいる。
「力試しだ!」「次の英雄を決めろ!」
歓声が飛び交う。
僕は裏方の仕事で桶を運びながら、その様子を眺めていた。
……いや、なんでモブの僕がスタッフ参加してんだ。
◇ ◇ ◇
試験は三段階に分かれていた。
第一段階は、巨大な魔物の討伐。
第二段階は、仲間との協力戦。
そして第三段階――最後に待っているのは“聖剣に選ばれるかどうか”。
勇者は剣を抜いた者に宿る。
そういう神話めいた演出を、ギルドは何よりも大事にしていた。
◇ ◇ ◇
第一段階。
巨大な狼型魔物が放たれる。
候補者たちは武器を振るい、魔法を放つ。
転生者のひとりは「ファイアボール!」と叫んで爆発を起こしたが、自爆して退場。
別の候補者は「課金スキル!」と叫んだが財布が空で倒れ込む。
……派手だが、どれも長続きしなかった。
結局、数人がかりで押し倒すという地味な方法で魔物は討伐された。
◇ ◇ ◇
第二段階。
候補者同士で協力し、複雑な仕掛けを突破する。
けれど「俺が主役だ!」と張り合って罠に引っかかる者が続出。
協力どころか足の引っ張り合いになり、観客席からは失笑が漏れた。
……なんだこれ。勇者ってこんなんでいいのか?
◇ ◇ ◇
そして第三段階。
闘技場の中央に聖剣ルミナスが突き立てられた。
青白い光を放つその剣に、会場が息を呑む。
「引き抜ける者が真の勇者!」
ギルドの使者が高らかに宣言した。
候補者たちは次々に挑む。
だが剣はびくともしない。
汗だくになり、歯を食いしばっても抜けない。
◇ ◇ ◇
……そのときだった。
観客席の後ろから「モブ勇者! お前がやれ!」という声が飛んだ。
観衆が一斉にこちらを見た。
「ちょ、待て! 僕はただの皿洗いだって!」
「謙虚だ……!」
「やっぱり真の勇者だ!」
ざわめきが渦巻き、ギルドの使者までこちらを手招きしている。
逃げ場は、なかった。
◇ ◇ ◇
震える足で聖剣の前に立たされる僕。
観客の視線が突き刺さる。
剣に手をかけた瞬間――
「……おかしい人ですね」
耳元に魔導書少女の声が響いた。
彼女は観客席から、冷たい瞳でこちらを観察していた。
僕は心の中で叫ぶ。
――頼むから抜けないでくれ! 抜けたら本当に勇者になっちまう!
◇ ◇ ◇
次回、「聖剣とモブの握手」
お楽しみに。
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