第21話 転生者の中の裏切り者
転生者同士の集まり――転生者ギルド。
愚痴をこぼし合い、情報を共有し、勇者ギルドや魔王軍に利用されないように身を守る。
そこは本来、唯一安心できる場所のはずだった。
けれど、その夜の会合で、僕らは“裏切り者”の存在を知ることになる。
◇ ◇ ◇
「……勇者ギルドに情報が漏れてる」
会合の冒頭、壮年の元警察官――あのまとめ役の男が低い声で言った。
「勇者の失踪者リストを作っていたのを、ギルドが先回りして隠蔽した。
誰かが内部の話を流してる」
ざわめきが広がる。
誰もが顔を見合わせ、疑心暗鬼の色を浮かべた。
◇ ◇ ◇
「嘘だろ……ここは仲間じゃないか」
「本当に裏切りがあるのか?」
その声の中で、一人の転生者が立ち上がった。
眼鏡をかけた青年――かつて“ステータスウィンドウのUXが悪い”とぼやいていた男だ。
彼は顔を青ざめさせ、震える声で言った。
「……僕じゃない。誓って、僕じゃない」
誰も何も言っていないのに。
その“言い訳”が、逆に場を凍らせた。
◇ ◇ ◇
そのとき。
本を抱えた魔導書少女が、すっと立ち上がった。
「この場に、勇者ギルドの“観測符”が仕込まれています」
彼女は壁際の木箱を指差した。
箱の隙間から、青い光が漏れていた。
「……盗聴魔法だ」
元警察官の男が顔をしかめた。
つまり、ここでの会話はすべて外に筒抜けだったのだ。
◇ ◇ ◇
「誰が仕込んだ?」
「まさか……」
視線が、眼鏡の青年に集中する。
彼は膝をつき、叫んだ。
「違う! 僕はただ……! ギルドに逆らったら殺されると思って……!」
その声には、恐怖と絶望が滲んでいた。
仲間を売るつもりではなく、生き延びるために必死だったのだ。
◇ ◇ ◇
沈黙の後。
元警察官が重々しく言った。
「処罰はしない。だが、もうこの場には置けない」
青年は泣きながら頷き、ふらふらと出て行った。
背中は、ただのモブのそれだった。
◇ ◇ ◇
「……観測終了」
魔導書少女が小声で記し、本を閉じた。
“転生者ギルド、内部に裏切り者あり”
僕は苦笑するしかなかった。
英雄でも魔王でもなく、ただの転生者でさえ、肩書きと恐怖に押し潰されていく。
結局、僕らは皆――主役にはなれないのかもしれない。
◇ ◇ ◇
次回、「モブが立ち会う勇者選抜試験」
お楽しみに。
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