第14話 勇者死亡ニュースとその真相

勇者は死なない。

少なくとも、そう“されている”。


ギルドの宣伝、街角の噂、吟遊詩人の歌。

どれもが勇者を「無敵」「不死身」「必ず勝つ」と語る。

でも、その日流れたニュースは、そんな常識を揺るがした。


◇ ◇ ◇


「勇者アレイン、戦死!」


朝の市場で叫ばれたその報せは、人々を凍らせた。

行商人は足を止め、子供たちは泣き出し、老人は「世も末だ」と天を仰ぐ。

人々が抱いていた「勇者神話」が音を立てて崩れていく瞬間だった。


僕もまた、手にしていた大根を落としかけた。

……いや、そりゃ驚くよ。

昨日まで「勇者様ばんざい!」って酒場で大騒ぎしてたんだよ?


◇ ◇ ◇


昼過ぎ。

酒場金獅子亭は異様な空気に包まれていた。

普段は勇者武勇伝で盛り上がるはずが、今夜は沈黙。

酔客は皆、暗い顔で酒を煽るだけだった。


「……本当に死んだのか?」

「いや、嘘だ。勇者は死なないはずだ」

「でもギルドが発表してるし……」


噂が渦巻き、信じたい気持ちと信じられない気持ちがぶつかり合っていた。


僕は皿を洗いながら、その光景を眺めていた。

勇者が死ぬ。

それだけで世界の空気はこんなにも変わるのか。


◇ ◇ ◇


夜更け。

路地裏で煙草をふかす男の声が耳に入った。


「……アレインは死んでねえよ」


驚いて覗くと、そこにいたのは――登録しない勇者、ヴァルドだった。


「ギルドの連中が“死んだ”ことにしただけだ」


「どういうことです?」


「奴は致命傷を負った。普通なら死んでるだろう。

でも、あのしぶとさだ。生きてるに決まってる」


ヴァルドは吐き捨てるように言った。

「ギルドは“負けた勇者”を許さないんだ。だから、死んだことにした」


◇ ◇ ◇


翌日。

市場に別のニュースが流れた。


「新勇者、召喚!」


あまりに早すぎる世代交代。

アレインが死んだと発表された翌日に、もう次の勇者が現れた。


「……用意してたな」

思わず呟いた。


勇者は“死なない”んじゃない。

死んでも“すぐに補充される”んだ。

それこそが勇者システムの真相。


◇ ◇ ◇


夜、酒場。

魔導書少女は静かに言った。


「勇者は人ではなく“役職”です。死んでも、名を継ぐ者が現れる。

神話は、人の命よりも重く作られている」


彼女は本にさらりと書き加えた。

“勇者アレイン、死亡。真相:抹消処理”


僕は思わず顔を覆った。

またひとつ、語られない真実を見てしまった。


◇ ◇ ◇


次回、「酒場で交わされた聖女の秘密」


お楽しみに。

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