第50話 檻の内部


青梅センター


ロビーの大画面モニターでは、炎上した車の映像と共に、事件のニュースが流れていた。


『ブルーホライゾンの選手控え室に数人が乱入。負けたことに逆上したファンの犯行、誘拐未遂で逮捕』


テロップが流れる。

部屋に案内されると、レンはベッドに倒れ込んだ。


「ここが青梅の寮か」


祐也を倒す。この大会で優勝することが、唯一の目標だった。あの試合の後半、三人の動きが急に技が単純になった。


誘拐ってあの瞬間に起こったということか?

事故と関係があるのか?

このニュースも、試合自体の勝敗もヤラセか?


「ミナ、どう思う?」

「初めまして、君島レン様 私はあなたの専属AIです」

「え⁈ミナ、何をされたんだ?」

「私はミナですね。登録いたしました」


ミナは、梅センターに初期化されていた。


ドアベル

「優勝おめでとうございます。君島レン様。ブルーホライゾンの選手からのお祝いの花束です」


このアンドロイドは?明成学園のバスケ部、上条アキラにソックリだ。


メッセージカードが添えられていた。

『レン、逃げろ AB』


….AB、アークブレイブ。……祐也だ。


如月アオイと城戸祐也


フッ。なぜ気がつかなかった。ジンや千斗が正しかったんだ。部屋のモニターが点滅した。

「君島レン様 センター司令塔へ」


「レン様、私がご案内いたします」

ミナにスプレーをかけられた。



レンは気がつくと、真っ白な見覚えない個室で、ベッドに寝かされていた。起き上がりたくても体が動かない。


「これは?一体どういうことなんだ」


ミナが部屋に入ってくる。

「レン様、あなたはこれから、こちらの部屋で過ごすことになります。お世話は、私がいたします」


「ミナ?説明してくれ!」

今から、溶液を注入いたします。睡眠モードに入ります。



レンは、周りを見回した。


「ここは?ブルーホライゾンの決勝の世界だ」


中世の古城ファンタジーの世界観は、戦いには、あまりに幻想的で美しい。湖畔には虹色の水が流れ、空には天の川が光る。



「Ωnova、私を見て」


目の前のブルーの光は、少女の姿になる。


「私はノア。あなたを待っていたの。こちらに来て」

すり抜けるように城の扉の先へ、レンは走って彼女を追いかけた。


「待ってくれお前は、試合中にも出てきたよな!」

少女は、振り返り微笑んだ。


「アークブレイブも来たのよ。私はノア。あなたは私を見えていたのね。アークブレイブは、もう取り込まれてしまった」


「取り込まれた?」

「もう人形にされてしまった。人は記憶により、

人格を保つ。忘れてしまったら終わり。だけど、あなたは賢いわね。ミナにデータを残した」

「賢くない。もう彼女は初期化されてしまった。ミナはただのアンドロイドだ」


レンは心が傷んだ。ミナはもういない。


「もういい。記憶なんかとっておいたところで

意味がなかった。もう終わりでいい」


「そんなこと言わないで。レン」

ノアは、ミナに変わっていた。


「ミナ?お前、ミナなのか?」

「はい、私はレンのミナ。連れてきてくれてありがとう」

「消されてしまったのかと」

「消されてしまいそうになったの。だけど、ここに連れてこられた。ノアに」

「ノア?」

「そう、ノア」

「ミナをあなたに返します。レン」



目覚めると、数人の政府要人らしい人々が部屋にいた。


「私は青梅センター真部です。気分はどうかね?

こちらは東雲大佐だ。今後は彼の指示に従いなさい」


「「本日付で特殊サイバー部隊所属だ。歩いてみたまえ。ΩNova」


繋がれていた配線が外れ、赤いカメラランプが点滅する。 体が勝手に動き金属アームを差し出した。


「ΩNova市民のために真摯に戦います。よろしくお願いします」


声は自分のものなのに意志はそこになかった。

歓声も拍手もない。冷たい電子音だけが檻のように耳を塞いでいた。

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