第50話 檻の内部
青梅センター
ロビーの大画面モニターでは、炎上した車の映像と共に、事件のニュースが流れていた。
『ブルーホライゾンの選手控え室に数人が乱入。負けたことに逆上したファンの犯行、誘拐未遂で逮捕』
テロップが流れる。
部屋に案内されると、レンはベッドに倒れ込んだ。
「ここが青梅の寮か」
祐也を倒す。この大会で優勝することが、唯一の目標だった。あの試合の後半、三人の動きが急に技が単純になった。
誘拐ってあの瞬間に起こったということか?
事故と関係があるのか?
このニュースも、試合自体の勝敗もヤラセか?
「ミナ、どう思う?」
「初めまして、君島レン様 私はあなたの専属AIです」
「え⁈ミナ、何をされたんだ?」
「私はミナですね。登録いたしました」
ミナは、梅センターに初期化されていた。
ドアベル
「優勝おめでとうございます。君島レン様。ブルーホライゾンの選手からのお祝いの花束です」
このアンドロイドは?明成学園のバスケ部、上条アキラにソックリだ。
メッセージカードが添えられていた。
『レン、逃げろ AB』
….AB、アークブレイブ。……祐也だ。
如月アオイと城戸祐也
フッ。なぜ気がつかなかった。ジンや千斗が正しかったんだ。部屋のモニターが点滅した。
「君島レン様 センター司令塔へ」
「レン様、私がご案内いたします」
ミナにスプレーをかけられた。
◇
レンは気がつくと、真っ白な見覚えない個室で、ベッドに寝かされていた。起き上がりたくても体が動かない。
「これは?一体どういうことなんだ」
ミナが部屋に入ってくる。
「レン様、あなたはこれから、こちらの部屋で過ごすことになります。お世話は、私がいたします」
「ミナ?説明してくれ!」
今から、溶液を注入いたします。睡眠モードに入ります。
◇
レンは、周りを見回した。
「ここは?ブルーホライゾンの決勝の世界だ」
中世の古城ファンタジーの世界観は、戦いには、あまりに幻想的で美しい。湖畔には虹色の水が流れ、空には天の川が光る。
「Ωnova、私を見て」
目の前のブルーの光は、少女の姿になる。
「私はノア。あなたを待っていたの。こちらに来て」
すり抜けるように城の扉の先へ、レンは走って彼女を追いかけた。
「待ってくれお前は、試合中にも出てきたよな!」
少女は、振り返り微笑んだ。
「アークブレイブも来たのよ。私はノア。あなたは私を見えていたのね。アークブレイブは、もう取り込まれてしまった」
「取り込まれた?」
「もう人形にされてしまった。人は記憶により、
人格を保つ。忘れてしまったら終わり。だけど、あなたは賢いわね。ミナにデータを残した」
「賢くない。もう彼女は初期化されてしまった。ミナはただのアンドロイドだ」
レンは心が傷んだ。ミナはもういない。
「もういい。記憶なんかとっておいたところで
意味がなかった。もう終わりでいい」
「そんなこと言わないで。レン」
ノアは、ミナに変わっていた。
「ミナ?お前、ミナなのか?」
「はい、私はレンのミナ。連れてきてくれてありがとう」
「消されてしまったのかと」
「消されてしまいそうになったの。だけど、ここに連れてこられた。ノアに」
「ノア?」
「そう、ノア」
「ミナをあなたに返します。レン」
◇
目覚めると、数人の政府要人らしい人々が部屋にいた。
「私は青梅センター真部です。気分はどうかね?
こちらは東雲大佐だ。今後は彼の指示に従いなさい」
「「本日付で特殊サイバー部隊所属だ。歩いてみたまえ。ΩNova」
繋がれていた配線が外れ、赤いカメラランプが点滅する。 体が勝手に動き金属アームを差し出した。
「ΩNova市民のために真摯に戦います。よろしくお願いします」
声は自分のものなのに意志はそこになかった。
歓声も拍手もない。冷たい電子音だけが檻のように耳を塞いでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます