曲水流觴

藤泉都理

第1話 頼み






『すまない。すまないな。負の遺産と忌み嫌われるようになってしまった城をどうしても私は遺したいのだ。棄てたくないのだ。とても大変な事とは承知の上だ。澄明ちょうめい。私の頼みをどうか、聞き届けておくれ。先祖代々守って来たこの城を、私の家をどうか、受け継いでくれる後継者を、私の子を、捜し出して、一緒に護っておくれ。未来に手渡せるようにしておくれ』




「はい。旦那様。遅くなりましたが、とうとう見つけました。旦那様のお孫様を。義仁よしひと様を」


 オールバックにポニーテールの髪の毛も長く垂れ流す眉毛も口髭も銀色、漆黒のタキシードと革靴で身を引き締める、外見は細身の高齢男性の澄明は、或る一軒のパン屋の前に立っては、瞳を潤わせた。


「旦那様の家をわたくしと共に護ってくださる義仁様を見つけました」






紫電一夕しでんいっせき』。

 緑豊かで広大なこの国での今の困り事は、貴族でありながら先祖たちが代々守って来た石城と共に貴族としての役目も放棄しては市民に迷惑をかける貴族たちの存在であり、また、後継者がおらず、見るも無残に朽ちていく立派な石城に棲まう魔物たちの存在であったそうな。






「え? やだよ。貴族の血が流れているとか知らねえし。俺はもう立派な庶民だし。このパン屋を受け継ぐって決めてんだから。他の貴族を探せよ。じいさん。じゃあな」


 立派な眉毛、曇りなき信念のある深青の眼、深青の短髪、ガタイはよく小柄な体格の十八歳の男性にして、澄明がこの一年間、捜し回っていた義仁にけんもほろろに袖にされては、パン屋から追い出された澄明。ふむと、目を隠す銀色の長い眉毛を軽く撫でてのち、周りから攻めますかと呟いては、不敵に笑ったのであった。











(2025.9.2)



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