第10話 魔王の息子、村人と腐った教会をみる

俺は目を覚ました。久しぶりにちゃんとしたベッドで眠れたからか、気分は最高だ。小鳥のさえずりをヒーリングミュージックにして、1階へ降りる。

すると、そこではすでにドレイクが料理をしていた。


「おっ、起きたかギール。もう少しでできるから待ってろ」


台所からは、まるでゾンビ肉を焼いてるような香ばしい匂い……いや、臭いわ!


「ドレイク!!お前、何を作ってんだ!?」

「ジンギスカンを焼こうと思ったんだけどな。火加減が分からなくて、強火で放置したらこんな匂いになっちまった」


……朝からジンギスカンは重いだろ!?しかも臭い出てたら普通に弱火にしろよ!


「普段どうやって生きてたんだ、お前」

「いつもライトルさんとか、教会で食ってた」


なるほど。キッチンが使い込まれてないわけだ。


「じゃあ、なんで今日に限って作ろうと思ったんだ」

「なんでか分からないけど……ギールの顔を見たら、ちょっと作ってみたくなってな」


ずるいな、こいつ。そう言われたら、何も言えなくなるじゃねぇか。


「でもやっぱりこれは食えないから捨てるか」


ゴミ箱に捨てようとした瞬間、俺は思わず手を伸ばして止めていた。


「ま、待て!俺は魔族だぞ。王族だから、大抵のもんは食える」


そう言って、無理やり口に放り込む。……噛めば噛むほど苦ぇ。

「な、なかなか……美味いぞ」

「おい、髪が真っ黒になってるぞ」

「そ、そんなの関係ねぇ!……ほら、さっさと教会行くぞ!」


まだ腹の中で何かがうごめいている気がする。けど、ドレイクに心配させたくないから、必死に髪の色だけは平常心を装った。


「二度目の教会だな。俺にふさわしいジョブは一体なんだろうな。魔法使い?剣士?」


軽口を叩いてみたが、返事がない。振り返ると、ドレイクは別の方向をじっと見ていた。

なんだ?俺も視線を追うと——


そこには「勇者仮面」「勇者トレーディングカード」「勇者ブレード」「勇者ケーキ」……。

勇者ブランド商品がずらりと並んでいて、教会服を着た連中がにやけ顔で屋台を出していた。


「おやおや、ギールさんにドレイクさん。昨日の今日で、来てくれましたか」

胡散臭い神父の一人が声をかけてきて、笑顔でこう続けた。


「ではさっそく、品出しを手伝ってもらいましょうか」


「おい!!パウロ!!これは一体どういうことだ!?」


俺が声を荒げると、パウロは落ち着いた様子で手を広げた。


「ギールさん、そんなに慌てないでください。時給は1200ですが、スキルを磨けば1500、2000にだって上がりますよ」


「時給の心配をしてるんじゃねぇ!!お前ら何やってんだって聞いてんだよ!!」


パウロは突然、胡散臭い涙を流し、ピンクのハンカチで顔を隠した。


「実を言うと……このお話、聞くも涙、語るも涙のカタストロフィがあるのです」


ああ、絶妙に胡散臭ぇ。ドレイクですら目に光がなくなって、冷たい視線で見下してる。


「私たちは、恵まれない人々を助けるためにお金が必要でした。しかしお布施だけでは限界がある。その時私は思ったんです……グッズを作ればいいって!」


「グッズ……?」


「最初はただの水を“聖なる水”と称して悪徳貴族に売るだけでした。しかし私は気づいてしまったのです。もっと金を稼ぐにはどうすればいいかと……。そうです、偉業を成し遂げながら正体を知られていない勇者様を題材にすればいいと!」


パウロは誇らしげに両手を広げる。背後には勇者仮面、勇者カード、勇者ブレード、勇者ケーキ……。


「やってることはスラムの子供たちを助けるため。勇者様も、きっと笑顔で許してくださることでしょう」


……いや、動機は善かもしれねぇけど、やってることが完全に悪だろ


こいつの話を聞いてると、何が正しくて何がダメなのか、だんだんわからなくなってくる。

あれ……冷静に考えたら、俺って別に勇者のこと好きでもないし。あいつがどんな題材にされようが、まぁどうでも良くないか?


「オッケー、パウロさん。俺、ここで働くわ」


「ギール!!それでいいのか!?」

ドレイクが焦ってるが、まぁ仕方ない。勇者のことなんざ、どうでもいい。


パウロは嬉しそうに両手を挙げて叫んだ。

「そう言ってくれると思いましたよ! よかった、昨日ようやく“さん”をつけてくれたと思ったのに、また呼び捨てに戻ったから好感度下がったんじゃないかとヒヤヒヤしてました」


「いや、実際下がったぞ」


そうして俺たちは、パウロの指示で教会裏の荷物を屋台へ運ぶことになった。


「なかなか重いな、この荷物。でも、俺は魔王の息子だからこれぐらい余裕だ」


手がプルプル震えるのを必死で隠しながら、箱を二つ同時に持ち上げてドレイクにアピールする。


「そうか。意外と軽い方だと思うが?」

ドレイクは涼しい顔で、箱を四つ同時に運んでいた。


……この村人マジでなんなんだ。







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