第4話 灯り

 晶魔獣の正体…

 わたしも、気になっていた。


 ウラハがそれを知っているなんて、本当に物知りなのね。



「晶魔獣は…230年前の戦争の後に見られるようになった、人の心の闇から生まれた…怪物なんだ。」


「晶魔獣が生まれる原因となった人々が実際に、見たことのある生き物の姿を真似していて、ひときわ暗い感情を持っている人間を襲うんだよ。」



 そうなの。


 やっぱり、わたしがみんなの心を直してあげないといけないのね。


 …わかった。



「それで、晶魔獣を絶滅させる方法はないのか?」


「たしか、アルノーア家がそれを探してるって聞いたんだよな…」


 ここで貴族の名前が出てくるなんて、意外。



「関係ないけど、ドゥリソラス家って何であんな政治をやってるんだ?」


「自分たちが楽して生きていきたい、それだけなんでしょ」


 隣では、ドゥリソラス家の企みを予想する声もあがっていた。


 …


 誰か来る。


 あの姿は…


「…っ!ドゥリソラス家と…聖アルス教会!?」


 どうしてここに、あの人たちが?


 庶民のことなんて、目にも入っていなかったはず。


 それとも…



「そこの女!」



「ぼ、ボクのこと!?」


「そうだ。お前は嘘をでっち上げ、国民にそれを流し、ドゥリソラス家の評判をいとも簡単に地に落とした!」


 ドゥリソラス家…かは分からないけれど、豪華絢爛な服を身に付けた者が、耳が痛くなるほどの大声で怒鳴り付ける。



 嘘?


 嘘なんかついてない。


 …ウラハはそんな事、しないよね。


 そうだよね。


 そうよ。


 そうに決まってるの。



「そして、お前は絶対に排除するべき死神という存在でもある!」


 ああ、あなたたちは死神が嫌いだったのよね。


 そうね…


 このまま放っておく訳にはいかないな。


 絶対に許さない。


 これほどまでに血が上ったのは初めてよ。


「……ファルカ!?だめだ!こっちに来ちゃ!」


 ウラハの制止なんて聞こえなかった。


 ただ、わたしはわたしのやりたい事を続けるだけだった。



「ねえ…あなたの心は、壊れてる?」


「急になんだ!部外者は出ていけ!」


 ……ふふふ。


 とっても修理し甲斐があるお人形さんね。



 視界をじっくりと舐め回すように、ゆらり、ゆらりと貴族たちに近づく。


「こ…く、来るな!気味が悪い!!」


「天使様…天使様…救いを………!」


 貴族と教会の人々は、"あっちに行け"とばかりに必死に手を振り回す。



 安心して。


 わたしはあなたたちの心を直すだけ。


 痛いことなんて、ひとつもないの。


 だから…



 目を閉じて、あの日の記憶を呼び覚ます。



 …

 ……


「ファルカ!誕生日、おめでとう~!!」


「今日はいつもより、特別なプレゼントを用意したんだ!」



「なになに?たのしみ!」



 両親から渡されたのは、細長くてツルツルした箱。


 何が入っているのかな。



 …


 子供でも簡単に開けられるようになっており、すぐに箱の中身を取り出すことができた。


「わー!おにんぎょうさんだ~!!」


 当時はまだ珍しかった、可動式のお人形。


「ふふ、喜んでくれたみたいね」


 その時の両親の顔は、かつてないほどの幸せで満ち溢れていた。



 だから、わたしも…


 そんな笑顔を、もう一度だけ、見たい。



 ここまで育ててくれた、お父様とお母様の"幸せ"が、見たい。




 …

 ……

 ………


「あれ、俺たち…何してたんだっけ…」


「なんだか、心が軽いわ!」


 わたしは、精一杯の"心を癒す魔法"を、国いっぱいにかけた。


 そして、お父様とお母様のもとへ戻るの。



「ファルカ…こんな凄いチカラを持っていたんだね…!」


 …ウラハも一緒に。




「ごめんね…ファルカ」


 会って早々投げかけられた言葉は、それだった。


「謝ってほしい訳じゃないの。わたしは、みんなの幸せが見たいから」


「ふふ……ファルカは本当に良い子に育ったわね…」


 いつしか得られなくなっていた、温もり。


 それが、今ではこんなにも近くで感じられる。


「ファルカ、泣いてるのか?」


 うそ、わたし、泣いてるの?


 …急いで両手で目を擦った。


「それで…その子は、友達か?」


「うん…ウラハっていう、とっても良いお友達なの」


「そう…ファルカにも、ついに良いお友達ができたのね」


 お母様…


 泣いている。


 それも、幸せな涙。


「ああ、ごめん!ボク…すぐに行かなきゃいけない所があるんだ。天使の国っていう…」


「遠くに、行くの…わたしも、連れていってほしい」


「…わかった、共に契約を結んだ仲だからね。一緒にいなくちゃどうしようもないね!」


「そうか、行ってらっしゃい」


「…あ、ファルカ!これ…プレゼントよ」


 お母様から貰ったのは、ずっと欲しかった、大きなくまさん。


「ありがとう………!すごく、うれしい」


「これからも、頑張るんだぞ」


 大事に、するね。



 …じゃあ、行ってきます。




 両親と、故郷に別れを告げ、わたしたちは輝く明日へと歩き出す。


 出会いも別れも全て、今を生きる肥料となる。



 …そんな詩編じみた事を考えながら、笑い合う。


「光と闇は、共存できる。そう、ボクたちのようにね!」

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シニガミ・ファルカ ねねこおはぎ @neneko_ohagi

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