第3話 怖がり

 少し離れた所で、立ってるだけ…


 言われた通りに、ウラハとは大声であれば声が届きそうな位置で戦闘を見守る。



 晶魔獣は振り返り、ウラハの方を向くと…


「うわあっ!」


 自分の体よりも大きな翼を、勢いよく広げた。


「もー、びっくりしたなぁ…うん?」


 嘴に光が集う。

 ビームか何か、出てくるのかな。


「ウラハ、離れて!」


 精一杯、声を振り絞って指示を出す。


 晶魔獣はその口から緑色の光の束を発射した。


 思った通り…


 もしかしてだけど、わたし…晶魔獣の心まで読めちゃうのかも。

 それなら…わたしも、ウラハの助けになれる…


「ありがとうファルカ!危うく消し炭になるところだったよ~…」


 ありがとう…そんな言葉を言われたのは、いつぶりだろうか。


 …


 あれ…


 何も、思い出せない。



 ………


 わたしが誰なのかは覚えている…


 でも、幸せな記憶も、悲しい記憶も、全部…


 わたし、忘れてしまったの…?




「どりゃー!!」


 色々と考えている間に、ウラハはもうとどめの攻撃を放っていた。


 晶魔獣は声を発さないまま、静かに灰となって消えてゆく。


 最期まで想いを伝えられないなんて、可哀想な種族ね…



 先ほどとは異なる、ゆっくりとした足取りで国の内部へ向かう。



 …ウラハに、記憶のこと、話してみようかな。




 ……


 記憶を失った事をウラハに伝えた。



「ファルカと出会う少し前から様子を見てたんだけど………うん、たぶん、ファルカは…本当は辛かったんだと思うよ」



 …


「そう、なのかな」


 記憶が無いせいで、自分の気持ちさえもよく分からなくなってきている。


「…前から見てたの?なら、全部教えて」



 …



 ひどい誕生日プレゼント。


 ひどい両親の態度。


 ひどい使用人からの扱い。




 …そう。


 そうだったのね。


 でも、まだはっきりとは思い出せない。


 記憶に、モヤがかかっている…

 そんな感じがするの。


「誰かを救えるようになりたいんだっけ。それなら…キミの両親を、救ってあげたらいいんじゃないかな?」


 そういえば、そんなことを思っていた気がする…


「ありがとう…ちょっとだけ、思い出せた…」


「それなら良かったよ。」



「あ、もうすぐ着くね…えっ?ふぁ、ファルカ!?」


 …くるしい。


 胸が苦しい。


 それに、焼け付くような痛みもある。


 あまりの辛さに、思わずその場に座りこんでしまった。



 これは…みんなの、叫び声…


 みんなが、助けを求めている。



 そしてわたしは立ち上がり、言った。


「はやく、行かなきゃ」


「…うん、行こう」




 崩れた橋に、逃げ惑う人々。


 街はパニック状態になっていた。



「晶魔獣だ!晶魔獣が出たぞ!!」


「こっちよ!早く!」


 …ここにも晶魔獣というものが現れたらしい。


 人混みをくぐり抜けて、晶魔獣のもとへ向かう。


「あれだ!」


 ウラハが指差したのは、全身真っ赤な、人間…?


 いや、あれも晶魔獣…なのだろうか。



 次の瞬間、晶魔獣は突然姿を消し…




「アナタノ ウシロ」


 わたしに、見たことのないエネルギーでできた剣を振り下ろす。



 …間に合わない。




 キィイン!


「させないよ」


 ウラハが、持っていた鎌で即座にわたしを守ってくれた。


「あ、ありがとう、ウラハ…」



「さーて、ボクの本気…見せちゃおっかな~?」


 鎌をおろして、地面に立てる。


 晶魔獣は、不服そうな顔をしながら剣を構えた。


「オーッケサシェシー・ベラウダネソラシエ・ファリクサフランシ・ドルツェネビーゴ!」


 ウラハが謎めいた呪文を唱える。


「ウッ…アタマ…アタマガ………」


 呻き声をあげながら、苦しみ始めた晶魔獣。


 そして、徐々にその体は塵と化していった。



 今更だけど…喋れるのね…

 でも、鳩の晶魔獣はそうではなかった。


 この晶魔獣は、何か特別な存在…なのかもしれない。


「ふふーん!人々の死への恐怖を、そのままコイツにぶつけてやったのさ!」


 …英雄の誕生を見る為だけに集まってきた群衆は、その言葉を聞いて血相を変えた。


「おい、この女…まさか…」


「死神…じゃないのか!?」


 人々はそれぞれ、戦いに適した道具を出す。


「こ、殺せーっ!」



 …死神って、悪いものなの?


 どうして?こんなに優しいのに。


 こんな…


 こんなわたしのことを、好きでいてくれるのに。



 ………許せない。


 許せないな。




「えっと…まーまー、落ち着いて…!今から話すのは、晶魔獣の正体について……興味あるでしょ…?」


 騒ぎ立てていた街中に少しの間、静寂が訪れた。



 晶魔獣の、正体…?

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