少女の思い


白く清潔感のある、部屋に少女が1人ベットに寝転がっていた。


「ふんふんふーん♪いつかなぁいつかなぁ。早く来ないかなぁ?私の最後」


少女が居るこの場所は、病院の一室である。少女は、物心つく前から入院しており、ろくに外に出たことがない。そんな少女が望むものがあった。それは...人生の最後、すなわち"死"、である。少女は、生きることを諦めていた。


「華奈...入るよ?」

「...!は~い!」


華奈と言うのは、死を望む少女の事で、中に入ってきたのは、少女、華奈の母親だった。


「お母さん!買ってきた?いつもの⁉」

「えぇ、ほら今日も綺麗に咲いているのをね」

「わーいありがとうお母さん‼」


華奈は、母親から7輪の花を受け取りいつもの場所へと生けた。母親に華奈がいつも頼んでいる花は、白のマリーゴールドだった。


「ふんふんふーん♪」

「...早く治ると良いわね」

「........うん!そうだね。治ったらみんなでピクニックに行きたいなぁ」

「ふふっその為には、お医者さんの言うことを聞くのよ?」

「もぉ~分かってるよ」


母親は、知らない。華奈が死を望んでいることを、華奈がこの病気が治らないと知っていることを。母親は、華奈のためにと嘘をついているが全てバレバレだった。


「次は、いつ来るの?」

「そうね、早くて5日後かしら~」

「そっかぁ...。じゃあさ、白のマリーゴールドと一緒に黄色の彼岸花も買ってきて欲しいなぁ」

「えぇ、分かったわ」


華奈がいつも花を頼むのは、自分の思いを写してくれるものをお願いしていた。母親は、特に調べることもなく言われたものを買ってきて与えていた。もうすぐ亡くなってしまうたった1人の娘のために。


そこからは、沢山話をしながら面会時間が終わるその時まで楽しく過ごしていた。母親だけは。華奈は、一切楽しくなく、嫌いな恒例行事をしているも当然だった。それでも嫌な顔ひとつ見せず、笑顔で接していた。


「あぁもう帰っちゃうんだぁ~」

「ごめんね、また来るから」

「ん~...じゃあまたね」

「えぇ」


そう残すと母親は、華奈のいる病室を後にした。華奈は、その姿を見届けると途端に、表情を無くした。まるで、人形のように全く動かなくなりそのまま、眠りについた。眠りから覚めないようにと祈りながら。



□■□■□■


翌日


「ふぁ~...。起きちゃった。まただ。また、死に損なった。生き長らえちゃった...どうした死ねるの?」


華奈は、眠りから覚めたときは、すごく不安定で死を望む事が一番強かった。


「あっ...あぁ」


頭が冴えたのか冷静を取り戻した華奈は、虚ろな目になったもののすぐに光を瞳に写した。


コンコンコンッ


ドアがノックしたと思えば、良く見慣れた看護師さんが入ってきた。手には、朝食を持っており、届けに来たのだとわかった。華奈に与えられると思わしき朝食は、明らかに量が少なかった。華奈は、いつも通りの笑みを浮かべ看護師さんを歓迎した。


「おっはよ~看護師さん‼今日の朝食は、何⁉」

「今日は、ですね。トーストしたパンとコーンスープ、レタスのサラダです」

「わぁ~美味しそうなご飯だね」

「また、30分後に取りに来ますね」

「は~い!」


看護師は、華奈に朝食を渡すと部屋を出ていった。華奈は、ゆっくりと朝食を取りはじめ、半分ちょっと食べたところで食べる手を止めた。それ以上食べる気になれなかったのだ。


「あぁ、マリーゴールド。私の気持ちを表してくれてありがとう。今度は、黄色の彼岸花も増えるから寂しくないね」


いつもと変わらない、日々を過ごた。



□■□■□■


変わらぬ日々に変化が訪れたのは、母親と会う日の昼前だった。いつ通り、朝食を食べてゆったりと過ごしていたとき、体中に急な痛みが走ったのだ。


「うっ...はぁ、はぁ。ぐっ...あ"...」


華奈は、必死にナースコールをした。しなければ死ねたかもしれないのにそれでも、押してしまった。少しすると乱暴に扉を開けられた。


「華奈さん‼大丈夫ですか?わかりますか?すぐに処置しますのでもう少し耐えてください」

「はぁ、はぁ...うぐっ...。ゲホッゲホッ」


華奈は、緊急治療室へ運ばれ、処置を受けた。一命を取り留めたものの、峠は、今日だろうと言われた。


「そっそうですか...華奈、大丈夫よ。華奈なら峠を越えられるはずよ」

「...ッ!うんっ‼私、なんとか越えるね!」

「えぇ、その息よ」


希望を持ったかのように話をして、母親を安心させた。その後母親から、5日前に頼んだ、白のマリーゴールドと黄色の彼岸花を貰って、部屋に飾った。母親は、どうしても外せない用事があるようで、一時帰った。


「アッハハッ。やっとだやっと。この時が来た。やっと救われる」


死ぬ時間が刻一刻と近付いて居ることに興奮した様子で笑っていた。死が目の前なのにかかわらず恐怖をもたず喜びを浮かべていた。



□■□■□■


夕方ごろ。再び苦しみに襲われたがその苦しみは、華奈を喜ばせた。死ねるときが来たのだと。


「さぁ、私を救って。死と言うなの救済で‼」


その後は、ご想像にお任せします。華奈が生き長らえたのか、それとももう亡くなってしまったのか...。




















































白のマリーゴールド...花言葉無し。


マリーゴールド...嫉妬、絶望、孤独


黄色の彼岸花...追想、深い思いやりの心、陽気、元気な心


彼岸花...情熱、独立、あきらめ

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