第20話 時空間

「ふぅ……」


 ジャイアントセンチピードの解体も終わり、額に軽くかいた汗を拭う。


 ボクの傍には、ジャイアントセンチピードの背中の黒い外骨格が並べられていた。


 今回は真っ黒な空間を使って解体したのだけど、昔、ナイフだけで解体した時よりスムーズにできたと思う。やっぱり切れ味が鋭いね。


 このボクが展開できる真っ黒な空間だけど、いつまでも真っ黒な空間と呼ぶのもかっこ悪いね。これからは時空間と呼ぼうかな。なんだかかっこいいし。


 ジャイアントセンチピードは、その牙だけではなく、背中の黒い外骨格も買取をしている。軽くて丈夫で熱で少し変形する便利な素材らしい。軽鎧の装甲にも使われることもあるようだ。


「あ……」


 鎧で思い出したけど、ボクの装備も整えていかないとな。今までの装備は置いてきちゃったし……。


「やっぱり、魔力が増える装備は欲しいし、防御力も欲しいし……」


 ボクは魔法使いだけど、ソードの魔法を使って接近戦もするし、ある程度の防御力も欲しいところだ。最低でも鎖帷子くらいは欲しい。


 分類的には魔法剣士になるのかな? 剣は使わないけどね。


 シールドがあるとはいえ、いつも防げるわけじゃないから、やっぱり防御は固めないとね。ボクもまだ死にたくないし。


「よいしょっと」


 ボクは時空間にジャイアントセンチピードの外骨格を仕舞うと立ち上がった。


 まだまだ金貨百枚には遠く届かないだろう。もっと稼ぐ必要がある。


 ということは、もっと奥に行くべきだ。


「生きて帰れるといいなぁ……」


 自分の言葉がフラグにならないのを祈りつつ、ボクは森の奥に向かって歩き続ける。


 ジャイアントセンチピードを倒し、ジャイアントスパイダーを倒し、ゴブリンとオークも倒し、どんどん森の奥へ。


「ん?」


 その時、松明の光を浴びて白く輝くものを発見した。


 ボクの声に振り返ったのは、人間が入っていそうな大きなウサギだ。


「ホーンラビット!」


 ボクの声に応えるように、ホーンラビットがこちらに向かって駆けてくる。速い。


「シールド!」


 咄嗟にシールドを展開すると、真っ黒なシールドにホーンラビットが飛び込んでくる。


 おそらく、シールドごとボクをその額に生えた大きなツノで貫こうとしたのだろうけど、ボクのシールドは決して割れることはない。そのシールドの正体は、どこまでも続く奈落の入り口だ。


「よいしょっと」


 シールドの中にスポッと入ってしまったホーンラビット。


 ボクはシールドとして展開した時空間を閉じる。これでホーンラビットが出てくることはないだろう。


「生物を生きたまま入れたのは初めてだけど、中はどうなってるんだろう?」


 ボクはホーンラビットを収納した時空間に意識を向けると、ホーンラビットは身動き一つ取らずに飛び込んだ態勢のまま固まっていた。


 生きてはいるようだけど、動けないのかな?


 もう少し詳しく調べてみると、どうやら時空間がピッチリと張り付くようにホーンラビットの形になっており、ホーンラビットは身動き一つ取れない状態らしい。


「あぁ……」


 今はなるべく魔力の消費を抑えようとしているから、それが原因かもしれない。もっとも魔力の消費が少ない形でホーンラビットを収納しているようだった。


「でも、まだホーンラビットは生きているんだよなぁ……」


 時空間から外に出せば、意気揚々とボクを襲ってくるだろう。冒険者ギルドに買取をお願いする前に倒さないといけない。


 とはいえ、一度時空間に捕まえたホーンラビットを外に出して戦うのも間抜けすぎる。どうにかならないかな?


「……できるのかな?」


 ボクはホーンラビットが収納された時空間の中にもう一つ時空間を生成してみる。


「お! いけた!」


 時空間の中での時空間の生成に初めて成功した瞬間だ。


 時空間が展開できるなら問題ない。ボクは生成した時空間を使ってホーンラビットの首を刎ねる。


 その瞬間、ドバっと溢れるホーンラビットの赤い血液。


「ふぅー……」


 どうやら無事に倒せたみたいだね。これで大丈夫だろう。


 しかし、時空間の中に時空間が生成できるなんてボクも知らなかった。今回は助かったなぁ。


 これができるということは、獲物をわざと時空間の中に入れるという戦術もありかもしれない。これができれば、相手の攻撃は届かず、ボクが一方的に攻撃することができる。つまり、安全だ。


 今まで空間の狭間を使って獲物を斬ることに固執していたけど、獲物を時空間に呑み込むというのもありだね。


「ありがとう、ホーンラビットくん。キミは誰かがおいしく食べてくれるよ」


 新しい発想をくれたホーンラビットに感謝し、ボクは歩み続ける。


 次に会ったのは、ゴブリンとオークの群れだった。もう慣れた相手だ。サクッと片付けて次へと進む。


 次に会ったのは、、またまたゴブリンとオークの集団だった。ゴブリン八のオーク二の計十匹の集団だった。


 だんだんゴブリンやオークとの遭遇率が上がってきたな。これはもしかするともしかするかもしれない。

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