第14話 『猫の耳毛先生』

 私、絵里は今恋のキューピッドだ。

 ラブコメのテンプレみたいな三角関係のあいつらをカラオケに閉じ込め......じゃなくて一緒にしてあげる。

 そのためには、まず彼らをうまくカラオケに誘わないといけない。


 まずは男たちだ。

 宵華は彼らと仲直りしたそうだから、あの二人が行くとなれば一緒についてくるだろう。


「よし、じゃあ海、お願い!」

「オッケー!」


 まず、名目としては勉強会だ。カラオケはその休憩ついでに行くつもり。

 海がまず春渡を誘う。春渡は成績が良いから建前として十分だ。

 次に虹斗。こいつが厄介だな〜......

 別に話しづらいわけじゃないんだが、誘いに乗りづらい。


「作戦変更。春渡と宵華2人を誘って」

「え、あ、うん。虹斗は?」

「虹斗君が聞こえるところで誘えない勝手についてくると思うよ」

「分かった。行ってくる」






 俺は特にやることもないので窓から校庭をぼーっと眺めていた。

 春渡に告白の邪魔をされた。

 運が悪かっただけなのに、イライラして思ってもないことを口にしてしまった。


......もうすぐ授業だからトイレ行っとくか。


 廊下に出ると、そこには何やら海と話している春渡と宵華の姿が。

 一瞬春渡と目が合ったが、すぐにそらしてしまった。

 ここまで感情が複雑に乱されたことは、人生で落ち度もなかったため、どうすれば良いのか分からない。


「あ、春渡と宵華。二人とも、今度勉強会に来てくれる?絵里が赤点取っちゃってさー」

「うーんどうしようかなー」

「まじでお願いします!カラオケとかも行こうよ」

「まあいいんじゃない?春渡」

「そうだね。うん」


 春渡の顔はやや不満げだった。

 俺の告白を邪魔してしまったから、気が引けるのだろうか。


 でも、悔しい。


 海は絵里と付き合っているため、宵華に手を出す心配はない。

 普段の俺なら、春渡を見張るために一緒についていこうとするだろう。

 それに仲直りもしたい。


「今回は譲ってやるよ」


 俺は海と春渡の間を堂々と通りに抜けた。

 奥でこっちを見て驚く絵里、後ろ会話している海の声も少し揺れた。

 グルだったのか。奈々みたいなことしやがって。

 俺達の三角関係の気づいている人はちらほらいる。

 絵里は、勉強会を口実に俺達を一緒にしようとしたのだろう。

 でも、その助けは必要ない。

 春渡に邪魔をされたとき、覚悟が決まった。

 俺は一人で勝つ。

 春渡、お前と仲直りするのは俺が宵華に告白したあとだ。




 などと一人で盛大にカッコつけた俺は、勉強会を少し尾行することにした。


「ママー、あのお兄さんこっそり女の子見てるー」

「駄目よ見てはいけません」


 こ、この程度の恥など、余裕だ...

 4人で仲良く話しながら歩いているのを見て、俺は少し羨ましいと思った。


「はあー...」


 ため息がでる...


「ま....」

「「混ざりたいなー」でしょ?お兄ちゃんは馬鹿だなー」


 後ろにいたのだ。奈々が。


「お、おいお前、なんでついてきてる!?」

「だって、気になったんだもん!大丈夫、今日はお兄ちゃんの味方だよ!だからお菓子買ってね?」


 邪魔するつもりがないのなら別にいいか。


「ちょっと君、この前の不良の仲間?またあの女の子狙ってるの?」


 後ろから突然聞こえた。

 振り向くとそこには背の高いイケメンがいた。

 うちの学校ではないが...

 男、女、正直どっちかわからない。でも女でこの身長は珍しいし多分男だ。

 なぜだろうか、こいつが怖い。

 強面でもないしムキムキな訳でもない。


「あ、宵華と知り合いですか?今話しかけようにも緊張してて...」


 適当な言い訳でこの場を離れよう。


「あ、そうなの?頑張ってね!とにかく、またあの前髪の子が狙われてるのかと思ったよ」

「いえいえそんなことは...」


 あれ?

 宵華を不良から助けた人って...


「奈々...この人がお前の言ってたイケメンか?」


 奈々はニヤニヤしていた。

 イケメンが来た方向と奈々が来た方向が同じ。

 俺と鉢合わせるために、ここまで来たのか。


「茶番は終わりだよ。そこの奈々ちゃんっていう女の子が、不審者がいるってここまで案内してくれた」


 奈々は最高のステージを用意してくれたな。

 宵華が惚れかけたコイツに、ムショーにイライラする。


「何のことですか?」

「何?僕、結構ケンカ強いよ」


 まあ、この流れじゃ何言っても信じでくれなさそうだな。


「じゃ、終わったら帰りにお菓子買ってきてねー。あ、ついでに少女漫画の新刊も!」

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