図書室の【きみ】
はくすや
新学期の匂い
きみは誰よりも先んじて蔵書庫の扉を開く。それがきみの役割だ。
そして扉をしばらく開け放しにして、換気扇を稼働させる。空気の入れ替えだ。
図書室最奥にあるこの蔵書庫には窓がほとんどない。申し訳程度に姿見くらいの大きさの採光窓があるだけだ。それもすりガラス。
それは書物を日に焼けさせないためだときみは思っている。
きみは夏休み中もときどきここの鍵を開けに来た。
図書委員としての務めではあったがきみにはそれが趣味と実益を兼ねたものだという自覚がある。
そう――きみは本が好きなのだ。
書庫と閲覧室はすでに全館空調が作動して冷房が効いていた。しかしこの蔵書庫は違う。
密閉されていたために生暖かく少し湿った空気を首筋に感じる。
本たちも息苦しく感じていたのではないかときみは思う。
こうして空気を入れ替え、外気――といっても実際は空調による人工的冷気だが――を通してやれば本たちも息を吹き返すだろう。
やがてかすかにシトラスの香りをきみは感じて後ろを振り返る。
そこにきみがその来訪を予感した銀髪の女神がいた。
ストレートの黒髪は繊細でわずかな光を浴びただけで輝く。特にその稜線は銀色にきらめきこの世のものとは思えない。
きみの姿を見つけた女神はその刹那小さな驚きを目に
それはきみと出会うときのいつもの変化だ。
「
女神は微笑む。
「先生が来られるのではないかと思っていました」
きみは答える。
「相変わらずのコロし文句ね」
その言葉を引き出すまでがきみたちのルーティンだった。
新学期の匂いはシトラスで始まる。
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キャスト
きみ
銀髪の女神
(※) 『気まぐれの遼』
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