第20話 ポスト・アポカリプス3 2031年

 2031年 12月 

 

 殺してやる。

 

 常に男はそう強く思いながら、建物を見上げている。


 殺してやる。

 

 殺戮の甘い妄想が、今の男を生かす全てだ、

 

 殺してやる。

 その瞬間を思い、男の唇は笑みにだらしなく歪んだ。 

 

 男……権現幸太(ごんげん こうた)は、白い校舎を長い階段の下から睨んでいた。

 

 否、もうそれしかないのだ。『あいつ』は捕らえたが、事はどうやら始まってしまった。

 らしくもなく体が微震する。彼も恐怖している。だがそれを屈辱の炎が跡形もなく燃やし尽くす。


 俺だけじゃないはずだ。権現は左右をぎろりと目玉で確認する。


『下層市民』にカテゴライズされた人々が頭を垂れ、精気もなく歩いている。


 権現は憎しみに大きく白い息の塊を吐く。

 太陽の下、汗が、異臭を放つ汗が流れる。恐らくひどい臭いなのだろう、とか彼は考えない。

 ただ殺意に震え、静かな市立聖クルス学園を見上げるだけだ。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る