第14話 シスター

 端だけが白い黒いゆったりとしたトゥニカ。頭を隠すフード状のコイフ。首に下げているのは丸い玉だけが並んだネックレス。

 市立聖クルス学園のシスターだ。


 陰では使いっ走りと呼ばれ、生徒に嗤われている。


 再び、ちっ、と有紗の舌打ちが火花のように散った。

 この学園のシスターは学園の出身者だ。だが彼女らは蛇蝎のように嫌われている。


「これはお嬢様方、お食事ですか?」

 嫌われる要素の一つだと言うのに、シスター麗こと脇坂麗(わきさか れい)は阿るように頭を下げた。


「ああ」有紗の返事は極端に短い。


 シスター麗は片方の目に喜びの光を輝かせる……彼女は片方しか眼球がない、もう片方はうろのような穴で、それを不潔そうな髪で隠している。 


「今日は子羊ですよ、シスター胡桃が用意しました」


 食事係のシスター胡桃……高松胡桃(たかまつ くるみ)は顔の下半分マスクで隠し、


「極上の子羊を用意しました」とくぐもった声で答えた。

「ありがとう」と返事をしたのは樹里亜だけ。夏姫ももぐもぐと口を動かしただけだ。


 仕方ない、このシスター達は下層市民だ。


 かつてこの学園も下層市民を入れていた。下層市民だらけだった。

 今のように選ばれた上層市民のお嬢様だけではなかった。だから選ばれた少女達は、選ばれなかったシスター達を毛嫌いし、見下している。例え学園出身者だとしても関係ない。


 数年前まで学園のシスターは尊敬され、例外はあったが生徒達に愛されていた。彼女達は時には幼く、時に暴力的になる支離滅裂な乙女達に道理を説き、服装の乱れを注意し、まさに大人の模範だった。


 今、下層市民のシスターがそんな事をしたら、誇張無しで血を見るだろう。


 世の二極化の亀裂はそこまで深い。

 政府の政策だ。

 さらに下層市民は簡単に上層市民になれない。なってはならない。

 これも政府のお達しだ。

 故に、上層市民に媚びて仲間になろうとしていた下層市民達は世界中で喚き、泣き叫んだ。


 夏姫も同情せずにはいられなかったが、中には上層市民に刃向かい、無限の憎しみを向ける反政府主義者もいるので、甘い顔はそうそうできなかった。


 那波の二の舞はごめんだ。 


 夏姫達は、鼻に問題を抱えている為にマスクを着けているシスター胡桃の横を、静かに通り過ぎて食堂へと入った。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る