第5話・完結

 客が出ていく。それを見送って、店員は大きく息を吐き出した。


「ずいぶんと景気の悪い顔だね」


 彼女の後ろから店長が声を掛けた。


「レジ入力が面倒なんですよ。あとで帳簿につけるのも手間なんですって。何のためのメニュー表なんですか……」

「僕の店なんだから構わないじゃないか」


 客の背中はもう見えないけれど、店長は客を見送るように細めた目を外に向ける。


「――それに、今日はあのひとひらしかなかったからね」

「最後のひとひらですか」

「まさか注文する客が来るとは思わなくて。一枚だけ作ってあったんだよね」

「あれ、組み立てるの大変ですもんね」


 店員はしみじみと頷く。店長も合わせて頷く。


「向日葵も大作だったけれど、睡蓮を立体に仕上げるのはなかなかに骨だ」

「なんでそんなものを月替わりのセットメニューにするんですか……破滅願望でも?」

「睡蓮には滅亡をイメージする物語が付随しているから、その影響かねえ」

「うわぁ、不吉……」

「あと、終わった恋という花言葉もあるねえ」

「なんでそういうことを言うんですか」


 噛みつくように店員が告げると、店長は笑う。


「まあまあ。だが、彼女を示すなら、信頼、か、愛情……純粋な心、かな。次の来店のときには大輪の睡蓮を池に見立てた皿の上に載せてやらないと――」


 そのタイミングで店の扉が開く。雑談は切り上げて、二人は仕事に戻るのだった。




《終わり》

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花喰い喫茶のティータイム 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

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