第4話

 店内には私以外の客はいないらしい。とても静かだ。席に案内されるときにも半個室状になったどのボックス席に人はいなかった。店員も案内している彼女以外にフロアにはいないようだ。結構広い店内なのに。

 アイスティーとともに運ばれてきた皿には、ひとひらの睡蓮の花びらが載せられていた。


「これがチョコレート?」


 しっとりとした表面はみずみずしささえ感じられて、本物の花びらのように目に映る。繊細な色も表現されている。


「はい。もっと大きなチョコレートケーキの一部がこの花びらですね」

「実物に寄せているんですか?」

「店長のこだわりで、実物大ですよ。一般的なサイズだと思います」


 何度もへぇと言いながらお皿を回してしまう。

 すごい。これを彼と一緒に食べたかった。

 まあ、蓮を見に行ったのに睡蓮を模したチョコを食べるなんてって反応はするだろうけど。


「食べるのもったいない……」

「お持ち帰りも可能ではあるはずなんですけど、あいにくのこの暑さなのでお勧めしませんよ」

「ですよねえ。また来ますよ」


 しっかりと鑑賞をしたのちに皿をテーブルに置いて、私は店員を見上げる。彼女は驚いた顔をしていた。


「食べる前にそんな話をされた方は初めてです」

「だって、今日は花びら一枚じゃないですか。全体も見てみたいし、一緒に見たい人がいるんです」


 きっと彼も興味を持ってくれるに違いない。一緒に出かける時間が取れるかが問題ではあるのだけど。


「なるほど。このメニュー、一人でいただくにはなかなかの量なので、一緒に食べたい人がいらっしゃるならおすすめです」

「いただきますね」

「どうぞごゆっくり」


 店員はにこっと微笑んで店の奥に帰っていく。私は花びらを摘んで齧った。

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