第2話

 約束した時間に間に合わなかった。私がどうしても見たいと言って無理して予定を空けてもらったのに。

 目が覚めたときはすでに約束の時間で。

 慌ててメッセージ送ったけど、向こうはもう現場にいて。午後のバイトに間に合わないからって、私が見たくてたまらなかった蓮の花の写真だけ送ってきた。

 彼は一人でも見に行って、私の代わりに花を見て、その証拠を送ってきたわけだ。

 楽しみにしていたのに。すごくすごく楽しみにしていたのに。

 二人で行くなんてデートみたいだからって、一週間前から服装も決めてメイクも髪型も決めて、ワクワクして当日を待っていたのに。

 緊張と興奮でちっとも眠れないなんて! しかも、彼からのメッセージで目が覚めるだなんてサイアクである。

 どうしてくれようか。

 間に合わないことは承知ですぐに顔を洗って着替えて、メイクはいつもより簡素にして家を出たけど、着いた頃には彼の姿はなかった。

 当たり前だ。

 携帯電話に送られてきた写真を表示して、彼が写してくれただろう蓮の花を探す。映り込んだ背景から推測して該当の花を見つけた。

 まるくて、赤みのさしたピンク色の花。


「二時間前にここに立っているはずだったのに……」


 大きくため息。そして自分も証拠として写真を撮る。開花するときにポンって音がすると聞いていたからそれを確かめたくて、早朝にこの池に行くための待ち合わせをしたのだ。


「もう今季は無理だろうなあ。何やってんのよ、自分……」


 写真を確認して、スケジュールアプリで今月と来月の予定を確認する。お互いに深夜バイトや早朝バイトがあるから、やっぱり今日以外は空きがない。

 つらあ……。

 今日だけだから気合いを入れた。それが仇となった。悔しいし情けない。

 彼が私を責めるようなメッセージを送ってこなかったのは救いなのだろうけれど、言葉少なに写真だけ送ってくるのは絶対に怒っていると思う。

 私のバカ。ほんと、バカ。

 陽射しが強い。気温は上昇中。蝉の声も響く。

 見学者の団体が入ってきたのと入れ替わるように私は池のある公園を出た。

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