向日葵の本数

第1話

 薔薇を贈るのに本数に注意せよとは花とは縁遠い俺でさえ知っている話だが、向日葵にも贈る本数には意味があるらしい。

 そんなの、贈り合う仲で常識として共有しているならまだしも、知らん奴の方が絶対に多いだろうに。

 ってか、そもそも気にするかよ……俺はロマンチストじゃねえんだよ。

 フラワーショップのおばちゃんにグダグダ言われたのがまだ腑に落ちない。消化できていればそこで向日葵の花束を買えただろうに、あんな言い方をされて花束を頼めるほど俺は強くない。相談だけして注文せずにフラワーショップを出てきてしまった。

 くっそ……花屋なんてその辺にいくらでもあるもんじゃねえからな。小せえ頃は歩ける距離にあったのに。

 花束を持って電車に乗るのは真っ平御免だ。だから近所でどうにか手配したかったのに。

 通販……花束って通販できるのか? 向日葵の花束……ブーケとして売ってるのはあるだろうが、俺が頼みたいのはそういうんじゃねえからな……。

 向日葵の花束である理由が俺にはある。だから、余計なことを言わずに花束を作って欲しかった、それだけなのに。

 足元に落ちていた小石を蹴り飛ばす。思いの外力が入ってしまい、遠くに飛ぶ。

 やべ。

 閑散とした商店街。くっそ暑いこともあって通行人はまばらだから人にぶつかる心配はしていなかったのだが、物にぶつかるかもしれない心配はすべきだった。

 鋭く突き刺すように飛んだ小石は黒板になっているボードにぶつかって、看板を倒してしまった。ガシャンと元気すぎる音が商店街に響き渡る。

 俺は慌てて看板に駆け寄って起こす。誰かに見られていないだろうかとキョロキョロすると、背後に影が立った。

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