第2話
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
急な声にハッとして、私はびっくりした。
見知らぬ喫茶店の入り口に立っている。学校から帰るところだったように記憶しているが、ぼんやりと歩いているうちにフラフラと店に立ち寄ってしまったらしかった。
こんな店、知らない。
声を掛けられたが店員の姿は見えなかった。
店内は明るく清潔であるが、不思議とお客の姿は見えない。カウンター席の端にはフラワーアートが飾られている。どこに目を向けても花が視界に入るようになっていて、コーヒーの香ばしい匂いがしなかったらフラワーショップかアートギャラリーじゃないかと錯覚しそうだ。
そういうコンセプトの店なのかな。
およそ中学生がやってくるような雰囲気の店ではない。私が引き返そうかと一歩下がると、何かにぶつかった。
「おやおや。外は雨が降り始めている。通り雨だろうから、雨宿りをしていきなよ」
穏やかな男性の声が頭上から降ってきた。
私が肩越しに見上げると、背の高い美麗な男性がにこやかに微笑んでいる。エプロンをしていることに気づいて、彼は従業員なのだろうと理解した。なお、人数を聞いてきた人物の声とは違うから、この男性が声を掛けたわけではないのだろう。
「雨ですか?」
よく見れば彼の肩のあたりが濡れている。
「見たところ、傘はお持ちじゃないだろう? コーヒーを……いや、君の年齢ならハーブティがおすすめかな。少し休んでいくといい」
そう返されて、両肩に手を置かれてしまう。馴れ馴れしいと感じたが、拒否するまもなくテーブル席に案内されてしまった。
「ごゆっくり」
「はあ……」
曖昧に返事をして、私は男性を見送った。
キッチンだろう場所から声がする。
「わ、店長、濡れてるじゃないですか」
「大雨だからねえ」
「笑ってる場合じゃないでしょ、タオルタオル……」
「そんなことより、ハーブティセットを一つ頼むよ。自分の世話は自分でできるから」
「ちゃんとタオル使ってくださいよ! もうー」
店内には落ち着いたクラシックがかかっているが、彼らの声ははっきりと聞き取れた。賑やかな喫茶店のようだ。
店員の関係が良好なのはなにより。
窓の見えない席に案内されたので外の様子はわからない。大雨だというのに雨音は聞こえなかった。
座席を仕切るように置かれた花を見る。綺麗だが違和感を覚える。
あれ?
造花かと思って手を伸ばす。触れてみればそれは生花だった。
ああ、そうか。ここの花、季節感がないんだ。
温室等で育てればある程度は開花時期をずらせるのだろう。そうだとしても、私が知っている花が並んでいて、その季節はバラバラだということが不気味だ。
全部が生花じゃないのかもしれないと結論づけたところで、エプロンをつけた女性が席にやってきた。
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