エチュード
鳥羽 あかり
第1話
ううっ、まぶしっ!
重たい瞼を少しずつ開いていった。ここって...それよりも、俺なんでここで寝てるんだ?
俺が体を起こすと、近くにいた魔法使い? のような格好をしている女の子が俺が起きていることに気がついた。
その子と目が合った。まんまるい目だ。その子の瞳に吸い込まれそうになっていると、彼女から聞きたくもなかったことを言われた。
「あ! 起きたのですね。では、早速ですが、冒険に向かいますよ!」
頭に衝撃がきた。何を言っているんだ? 冒険? いつ、俺が冒険者になるって言ったんだ。もしかして寝る前に言ってたり......でも、そんな記憶はない。
普通に授業終わりに寝ていたはずだ。僕が隣を見ると、全てを悟った。
アイツら、あれほど言ったのに......
俺が彼女の言葉に答えなかったからか、彼女は不満げに眉を下げた。
「勇者のユウマさん! 聞いてますか?」
「すまん、なんだよ?」
「なんだよ? じゃないです! 今から冒険に出ますよ! 長い旅になるので早く鞄と剣を持ってください!」
「いや、それよりも何の旅だっけ?」
「魔王を倒しに行く旅ですよ! これ、ユウマさんの剣です」
彼女から「はい」と剣をもらった。机の上に置いてあった鞄をかけて、彼女の方を向いた。
「で、君の名前はなんだっけ?」
「え? あー、そういえば記憶も少しいじったっけ?」
「いじった? どういう意味だ?」
「ううん、気にしないでこっちの話! 私の名前はエリっていうの! 呼び捨てでも、ちゃん付けでもいいよ!」
「じゃあ、エリ行こうか」
「はい」
旅に出ようと一歩を前に踏み出した時だった。
「ちょ、ちょっと待ったあ!!!」
早く終わりたいのに、なんだ?
後ろを見ると、息を切らしてるように肩を揺らしているフリをしている高橋がいた。
そう今、俺は無茶振りをされている。あれほど、止めたはずなのに。
ここはステージの上、ちょうど俺ら演劇部の発表途中だ。ただいつもと違うのは、台本がないこと。今、俺たちは文化祭で見にきてくれたお客さんに即興劇を見せている。
この劇がどう転ぶかは、俺たち次第ということだ。
息を切らしていた高橋が言った。
「ユウマ、ソイツから離れろ!!」
もちろん、急にそんなことを言われても、離れないむしろ...
「エリから離れるって、俺たち仲間じゃないか!」
エリの手を掴んだ。でも、高橋はそれを見てワナワナと震え出した。
「違う、違うんだ。ソイツは魔法使いっていう皮を被った魔王なんだ!!」
高橋の言葉に目が点になった。
あ、そっち!?
エリの方を向くと、エリは眉間に皺を寄せて、渋そうな顔をしていた。
高橋! どうしてくれるんだ!
エリの可愛い顔が台無しじゃないか!!
俺たちのしている即興劇は、ゼロからスタートっていうわけではない。テーマや登場人物、場面設定が決まっている“エチュード”だ。それもあって、まだ演技がしやすい。
ただ、お客さんの前でするものではない。普段はこれをみんなの演技が上手くなるように、練習に組み込んでいるだけだ。それをお客さんの前でしようとエリが言い出した。
もちろん断ったさ、部長の俺が。でも、そんな俺の言葉に耳を貸さずに、エリは俺に内緒で(しかも俺が寝ている時に)ここへと、俺を運び込んだのだろう。
「エリが魔王って、どういうことだ!」
「騎士のタカシから言わせていただくと、ソイツがユウマに忘却魔術をかけるのを見たんだ! そして、さっきエリの魔術書を見たら、ビンゴ! なんとエリの魔術書に栞が挟んであったんだ。それも、忘却魔術のページにな!!」
なんと、まあ。都合のいい設定だろう。高橋ことタカシは、魔術書を掲げている。でも......
「タカシ、なんで魔術書をジップロックに入れているんだ?」
ジップロックというのは、あれだ......チャック付き袋の名称のことだ。
タカシは魔術書をジップロックに入れて、裁判所で検察官のようにそれを掲げていた。
「だって、エリの魔術書怖いもん!」
急に口調が変わった! タカシって、そういうキャラなのか!?
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