第10話 美容院

 お婆さんがやっている美容室にみんなでお邪魔した。

 建物はボロボロで、日差しを近くのマンションが完全に遮っている。

 ここはお婆さんがやってて、呪いが掛かった私でも嫌悪したり汚い物を見るような素振りがなかった。

 そういう意味では恩人の店。


 ドアを開けるといつものカランカランという音。

 中に客はひとりもいない。


「お久しぶりです。想子そうこです」

「まあまあ、見ないうちに、すっかり変っちゃって」

「外国に行ってたの。彼らはその時に出会った知り合い」


 お婆ちゃんは賢狼けんろうさんをガン見。

 ええっ、たしかにこの歳のお爺ちゃんとしたら、イケメンかも。

 染みとかないし、健康そうだし、腰も曲がってないし、髪の毛もふさふさ。

 西洋人顔だから、日本人からみたらそれだけでイケメンに見える。


「おばちゃん、後で賢狼けんろうさんにお茶を飲みにここに来るように言うから」


 お婆さんだけど、おばちゃんと呼ばないとへそを曲げるからね。

 女性はいつでも若く見られたい。


「もう、想子そうこちゃんたら。でも、茶飲み友達は何人でも歓迎よ。賢狼けんろうさん、よろしく」

「うむ、よろしく頼むぞい」

「日本語が上手ね。ちょっと古風な感じの喋り方だけど、時代劇を見て覚えたのかしら。若い外国の人はアニメ見て覚えるみたいだけどね。ごめんなさい、べらべら喋っちゃって。想子そうこちゃん、いつもの髪型?」

「イメチェンしたいの。アイドルみたいに可愛くしてほしいな」

「任せて。おばちゃん、頑張るから」


 全員の髪の毛を整えてもらった。


「お礼ですわ。【上級回復】ですの」


 甜瓜めろんがお婆ちゃんを回復させる。


「外国のお呪いかい。なんか凄く元気になった気がするよ。ありがとね」


「おばちゃん、また来るね」


 お婆さんの困った顔。


「ええとね、店を畳もうかと思っているのよ」

「何で?」


「私と同じで、建物にガタがきてるし、跡継ぎもいないし。これも時代の流れさね」

「納得行かないよ。ここが無くなったら私どこに行けばいいの?」


想子そうこちゃん、嬉しいけどね……」


 無理言わないでって聞こえた気がした。


「お金は掛けないから、勝手にやる。ちょっとした掃除ぐらい良いでしょ」

「掃除してくれるのかい。嬉しいねぇ。じゃ頼もうかね。奥で休んでるよ。客が来たら呼んどくれ」


 お婆さんは6人も髪の毛を整えて疲れたのか休むみたい。

 いさむが魔道具カメラで撮影してる。


いさむ、なんで撮影してるの?」

想子そうこが可愛いから。残しておきたいと思って。良いだろ」


「いいこと思いついた。いさむ、撮影は止めないで。甜瓜めろん、浄化して綺麗にしてみない?」

「ええ、あのお婆さんの魂は綺麗ですから、気に入りましたわ。力を合わせますわよ」


「せーのですわ。「【神級浄化】」ですわ」


 新品同様に綺麗になっていく店と道具。


「むむむ、修復魔法じゃ。ひびなんかが埋まったはずじゃわい」

賢狼けんろうさん、ありがと」

「婆さんは友じゃからな」


 匠師たくみしさんは魔道具をいくつか取り付けてた。

 快適になる何かかな。

 そう言えば、じめじめが減った感じがする。


 雷が鳴った。


「ひっ!」

「モンスターですの?!」


 みんなが戦闘態勢。

 外にでるとよく晴れてて、何かがおかしい。

 ああ、日差しを遮ってたマンションが綺麗になくなってる。


 マンションの方向から、れいがぽっこりお腹をさすりながら歩いて来る。

 まさか。


れい、やっちゃったの?! もしかして日当たりをよくしたくて?」

「どろどろしてたから、吹っ飛ばした」


 あああ、また炎上の火種。

 回転しろ、私の頭の中のハムスター。

 ハムスター回し車の中にハムスターが入り、柔軟体操。

 やがて走り始めた。

 ハムスターの目の前に糸で吊るされたひまわりの種。

 ハムスターの速さが何倍にも上がる。

 回し車に取り付けられている発電機と電球。

 ぴこんと頭の中の電球が灯った。

 電球に書かれた文字はアリバイ。


「動画のれいの台詞はカット。崩れた音の時は店内にれい以外はみんないた。アリバイ成立。やったね、ハムちゃん。れいのアリバイは要らない。れい、県外まで飛んで行って、人間形態でどこかの監視カメラに映ってきなさい」

「うん」


 人が飛べるなんてことは考えられないから、れいのアリバイはこれでオッケー。

 ハムちゃんご満悦。


「みんな、救助しないと!」


 マンション跡地近くに行くと、人の気配がない。


「生きている人はいないですわ。魂の輝きが見えませんもの」

「犠牲者を出したくなかったのに。しかも、全員死亡はちょっと」

空羅々くらら、邪神の欠片の残滓が僅かに感じられますわ」


 邪神の欠片は正体が判ってないんだけど、どんな物かは知っている。

 異世界で何度も退治した。

 モンスターを狂暴にしたり、人間を悪い方向に導く。

 成長すると、人を襲う。


 実体がないから、神級浄化スキルでないと倒せない。

 例外として、れいのブレスでも浄化できる。

 おまけに浄化した邪神の欠片をれいは食べて、消化できる。

 チートドラゴンの神竜だからね。


 消防車、パトカー、やじ馬が集まる。

 消防隊員が声を掛けながら、がれきの中に入っていく。


「骨があるぞ! 白骨死体だ! しかもかなりの数だ!」


 現場が騒然となって、色めき立つ。

 ええと、どういうこと?

 説明プリーズ。


「【女神質問検索】、白骨死体は誰?」


――――――――――――――――――――――――

天使アイエルがお答えします。

 魔王崇拝者です。

 邪神の欠片を育てるために食われました。

 邪神の欠片の気配が漏れないように、邪術が掛けられていたようです。

 魔族の仕業が疑われます。

――――――――――――――――――――――――


 れいは無実だったのね。

 ごめん、叱る前でよかった。

 マンションのオーナーには悪いから、お金持ちになったら何とかするよ。

 でも、確認は大事。


「一応ね。【女神質問検索】、このマンションのオーナーは誰?」


――――――――――――――――――――――――

天使アイエルがお答えします。

 魔王崇拝者です。

 邪神の欠片を育てるために食われました。

――――――――――――――――――――――――


 なんというご都合主義。

 帰ってからアリバイ動画をアップしないと。

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