第8話  野球センスの塊②   



 ショーヘイの選手人生も、少年野球から始まり、お決まりの左打ちコンバートというプロセスを経ている。

 松井秀喜やイチロー選手と同じコース。

 野球の試合で、左打ちが有利なのは常識だが、乙香というライバルが目標となった今では、ショーヘイにはそれが恨めしくもあった。

 左腕のアンダースローの乙香は、左打者のショーヘイにとってはいわば「不俱戴天」の仇敵だった。 昔に西武ライオンズに永射保というサウスポーがいたが、どうしても打ち取りたい左打者に、「一人一殺」と、ワンポイントリリーフをしていたものだ。…


 ショーヘイの秀でた体格、エクセレントな素質は、そもそもの初め、皆で集合して軽いキャッチボール開始の時から群を抜いていて、それは誰の目にも明らかだった。


 「Born to be baseball player!!」アメリカ人のコーチは、目を丸くしてショーヘイのプレーを見て唸ったものだ。

 

強肩で俊足。 筋肉は柔軟極まりなく、無限の潜在能力を予感させて、途方もない強靭さを秘めていた。


 そうしてショーヘイは野球というメンタルで複雑なスポーツにぴったり相性のいい、高水準のクレヴァーさ、勘の良さがあり、これも群を抜いていたのだ。

 

 …相変わらず、四六時中、ショーヘイは「清宮乙香のあの剛球スライダーにジャストミートしてせめてセンター前に打ち返すには?」という命題に頭を悩ませて、脳内で半ば無意識にシミュレーションを繰り返していた。


 「地の底から、不意にUFOでも出現する感じに、こう…物凄い速球がせり上がってきて、あっという間もなく高速を保ったままググっとシュート回転して、気が付いたらもう消えている…あんなん、打ってこないや! まるでハナシだけに聴く、レフティグローブのスモークボールやな!  

 推測だけど、メジャーでも、あんな奇跡的に凄い球筋を見極めてすぐジャストミートできるバッターはごく数人? そんな気すらする。…」


 この頃は、ショーヘイの脳内では、ひっきりなしのこういう想念が渦巻き続けていて…

 気が付くと、日常のあらゆる場面で、そうやって、いつまでも悶々としたままに、埒もない空想だけが堂々巡りしているのだった…


 恰もそれは、恋煩いにも似た、乙香という魔女のかけた”呪縛”だった…


<続く>


 

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野球小説・『アンダースロー』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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