体育祭2
慌ただしい日々が過ぎ、気づけば体育祭前日。
夕焼けに赤く染まる生徒会室には、ここ数週間では珍しく、ゆったりとした空気が流れていた。
「いよいよ明日か。」
窓から見えるグラウンドには、着々と組み立てられたテントや用具が並んでいる。
忙しかった日々が思い出され、生徒会長として迎える最後の体育祭が胸の奥でずしりと重くなった。
どうか、何事もなく無事に終わりますように。心の中で小さく祈った。
「戻りましたー。」
生徒会室のドアが開き、蒼真が入ってきた。
そのまま私の隣にやってきて窓の外を眺める。
「綺麗な夕焼けですね。」
そう言って、何かを続けようとしてやめた。
「蒼真は明日、何の競技に出るの?」
沈黙が出来る前に、私は慌てて話題を振った
「俺は、借り物競争と、騎馬戦と、男子リレーと、あと四色対抗リレー。」
「え、めっちゃ出るじゃん。生徒会も忙しいよ?大丈夫?」
わざと大げさに声をあげて笑ってから、少し無理があるような気がしてすぐに辞めた。
緊張していることを蒼真にだけは気づかれたくない。
「瑞稀先輩は何出るんですか?」
「私は、障害物競走と、女子リレーと、あと私も四色対抗リレー。」
「めっちゃ走るじゃん。」
そう言って蒼真が笑ってくれたのを見て、胸の奥にあった緊張が少しずつほぐれていった。
自然と私の顔にも笑顔が浮かんだ。
「蒼真は何色?」
「赤。先輩と一緒。」
「何で知ってるの?あ、飛鳥か。」
蒼真と同じ色ということは、四色対抗リレーは蒼真からバトンを受け継ぐことになる。
このリレーは、学年代表の男女が2人ずつ走る、体育祭の目玉競技だ。得点も他の競技に比べるとかなり高く、ここで1位になった色が、毎年優勝を決めてきた。
「先輩は何番目に走んの?」
「四色のこと?四色だったら、私は3年の一番目で、アンカーは飛鳥。」
「じゃあ俺、2年の4番目だから、先輩に直接バトン渡せるじゃん。やった。」
嬉しそうに無邪気に笑う蒼真の笑顔を見ていると、さっきまでの不安はいつのまにか消え去っていた。
代わりに、明日への期待と頑張ろうという気持ちが湧きあがってきた。きっとなんとかなる。
私には蒼真も飛鳥も杏子ちゃんもいる。何かあってもこの4人なら絶対に大丈夫だ。
「明日、頑張ろうね。」
「はいっ。」
夕焼けの色が、なぜかさっきよりも赤く感じられた。
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