体育祭1
新学期が始まってから1か月。
ようやく慣れてきた頃、放課後の生徒会室には段ボールや資料の山が積み上がっていた。
この時期にある行事はというと、そう、体育祭だ。
まだ当日まで1か月近くあるというのに、生徒会はもうすでに慌ただしさに包まれていた。
「明日の実行委員への説明会の資料ってコピーしたっけ?」
「俺が昨日作って、今は先生の許可待ち。」
「井口先生だよね?ごめんだけど杏子ちゃん、確認しに行ってくれる?」
体育祭は文化祭と並んで、生徒会が最も忙しくなる行事だ。
資料作り、先生への確認、競技ルールの整備、やることは尽きない。
「蒼真、新しい競技の件、今どうなってる?先生からオッケーもらった?」
「うん、今日の昼休みになんとか。」
「ぎりぎり説明会には間に合ったね。よかったー。」
去年も生徒会として活動していた飛鳥は、指示を出す前に動いてくれる。
蒼真も杏子ちゃんも、初めての忙しさに戸惑いながらもよく動いてくれている。
おかげでまだ最悪の事態には至っていない。
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「はぁ…」
部活が始まる時間になってもまだまだ山積みになっている目の前の資料を見て、思わずため息がもれた。
「先輩、それ、俺やるよ?今日部活でしょ?」
「うん。でも、今日はもう休むって言ったから大丈夫。」
テニス部の部長でありながら部活を休むのは正直かなりつらい。
私は元々テニスはあまり上手いわけではない。
人一倍練習してなんとか今の地位を保っている。少しでもさぼるとすぐに後退してしまう。
「ほら、眉間にしわ寄ってる。ほんとは行きたいんでしょ?俺らでやっとくから、先輩は部活に行ってきてください。ね?」
蒼真に眉間をつつかれて、はっとした。知らぬ間にしかめっ面になっていたらしい。
皆それぞれ忙しいのに自分の仕事を押し付けるわけにはいかない。
有無を言わせない笑顔で前に立つ蒼真にたじたじとなりながらも、助けを求めて飛鳥に視線を送ったが、華麗にスルーされてしまった。
「井口先生、オッケーだそうです。あれ、どうしたんですか?」
杏子ちゃんが戻ってきて助かったと思ったのも束の間、
「大丈夫です、先輩!それぐらい私たちで終わらせるで、先輩は部活に行ってきてください!」
笑顔の杏子ちゃんを見て、これ以上は逆らえないと悟った。
「じゃあ、ごめん。後は頼んだ。」
ドアを閉めて生徒会室を後にする。
足取りは自然と軽くなっていった。
「瑞稀、めっちゃ嬉しそうだったな。」
「蒼真くん、ナイス。」
「よし、急いで終わらせよう。」
満足げな顔で瑞稀を送り出した3人は、その日のうちに資料の山を一気に終わらせた。
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