エピローグ

『駄目です!認められませんっっ!!』

「いやいや、そこを何とか…!」

「ねぇ、オレ関係ないから帰っていい?」

『お黙りなさいっっ!!』

「申し訳ございません!!」


私は何故か聖堂の真ん中で正座をしている。目の前に立っているのは学園長…正しくは聖エンゲル学園と天界学園の両方の学園長を兼ねた存在だ。


そんなすごい人が怒っている。とてつもなく怒っている。原因といえば、私の頭に生えている角と背中にある真っ白な片翼なんだけれど。


死んだと思って目を覚ましたら、黒髪に戻ったシロが大号泣していた。強く抱きしめられ、私も涙ぐんで背中に腕を回すと、あるはずの存在が片方なかったのだ。私は驚いた。シロがいつの間にか、片翼の天使になってしまっていたのだ。片翼の天使は、堕天を表すとも言われている。私は思わず頭を抱えた。その頭に、何やら触り慣れない感触があった。それに気づいたシロが、顔を青くして口をパクパクと開閉する。その後ろでクロイくんが『オレ知ーらない』という顔をしていた。


『悪魔と天使の魂が入り混じった人間など前代未聞ですよっっ!本っっ当に信じられない!!』


……そう。今の私は頭に悪魔の角が生え、背中に片翼を携えるという、何ともチグハグな存在となってしまったのである。2人の言い合いをみていると、肩身が狭くなって居心地が悪い。シロが地面に頭を叩きつけん勢いで土下座をする。


「こうなってしまった以上カスミは人間界には居られません!どうか彼女を天界に、俺の傍に置く許可をください学園長!!」

『無理だって言っているでしょう!悪魔の角を生やした天使なんて天界にはいません!冥界に行くべきで……』


『へぇ~、じゃあオレが連れてっちゃおうかな』


私の横で暇そうにしていたクロイくんが右手を上げた。


『悪魔の角生やしてるけど、魂は天使と悪魔、両方の素質をもってるんでしょ?だったらこの子でたくさん“検証”して、悪魔の心を生やした天使を量産する実験を…』

『シロくん!許可を与えます!!』

「ありがとうございます学園長!!」


何故か天界に滞在する許可が降りてしまった。本来ならば人間は、死んで天界に昇った後、輪廻転生の流れへと組み込まれるのだけれど、中途半端な魂でコチラに来てしまった私はどうやら例外らしい。


『その角と片翼がどうにかできるまでは、転生はお預けですかねぇ…天界学園への編入手続きも取らないと…』

「そ、そんなぁ…」

「……カスミは、すぐにでも生まれ変わりたいのか?」


シロが不満そうな顔をする。私は何と言っていいのか分からなくなった。天界にやって来た人間の本能なのか、どうにも輪廻転生という言葉に惹かれて仕方ない。


「私、ちゃんと転生できるのかなぁ…」

「心配しなくても大丈夫だって!」


ニッコリ笑顔でシロが言う。その瞳が、いつもみたいに無邪気な光だけじゃない、ほの暗い闇も少し見えたような気がしたけど、気の所為だろうか。


「俺がお前を人間に戻す。そんでもって、俺が上位天使になる!それで全部がハッピーエンドだ!!」

「お願いしますよ、天使様…」


「任せとけ!俺が全部、何とかしてやるから!」







……この数日後、熾天使セラフィムから300年に一度の啓示がなされることを、私たちはまだ知らなかった。


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何とかしてやる天使様 @si_ro

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