第24話
すべてが静かに見えた。
静かすぎるほどに。
ヘンは拳銃をしっかり握り、目をドアの向こうに据えていた。向こう側では抑えた声が命令を交わし、神経質なささやきが響いている。すると突然、金属が鳴る音が響き――clang――白い煙が空気を満たし始めた。
「これは…何だ?」レナは顔に手をやり、つぶやいた。
煙は素早く広がり、廊下を濃い霧のように包んだ。ドアの向こうにいた一団は咳き込み、混乱する。彼らが反応する間もなく、ドアは力任せに打ち破られ、光と音の爆発が場内を支配した。
バン!バン!バン!
ヘンは即座に反応した。三発の短い、正確な銃声。最初の数体が、何が起きたのか理解する前に床に倒れた。
火薬と焼けた金属の臭いが白い煙と混じり合う。
「いい判断だった…」ヘンは荒い息をつきながら言った。 「消火器が助けてくれた」
レナはすすで汚れた顔をしてヘンを見つめたが、その目には誇りの光が宿っていた。
「たまたまよ…」彼女はつぶやいた。 「それとも、ただの必死の策かもしれないけど」
ヘンはほほえみを浮かべ、彼女の腕を取った。
「そんなことはどうでもいい。走れ!」
二人は振り返らずに階段を駆け上がった。煙が後方へと残り、遠くで銃声や悲鳴、破られるドアの音が混ざり合っていた。
何段も、永遠のように思えるほどの階段と荒い息の末に、ようやく最上階にたどり着いた。
再び静寂が訪れた。重く、息苦しい静けさ。明かりは点滅し、幾つかは壊れている。廊下には死体や破片が散乱していた。生き残りはわずかで、顔は青ざめ、怯え、残された地獄を理解しようとしている。
すると、彼の声がスピーカー越しに冷たく高慢に響いた。ヴァンパイアの声だ。
「残りは…四十三だ。」その声は階上階下に響き渡り、皮肉に満ちていた。 「饗宴はもうすぐ揃う」
ヘンは背筋に寒気を感じた。
「四十三…? そんなに多く…?」
ヴァンパイアは嗤った。
「数が少なくなった今、終盤戦を始めよう。ここからはお前ら同士で潰しあってもらう。生き残れるのは五人だけだ。他は…見せ物のために必要だ」
レナは目を見開き、震えた。
「五人? そんなの狂ってる! 今ここで殺し合わせるつもりなの?」
ヘンは銃をしっかり構え、周囲を見渡した。
「どうやら、そういうことらしい」
背後で女性の声が響いた――あの三つ編みの少女、メアリだった。
「ヘン…どうするの?」その声は震えている。
返事をする間もなく、叫び声が空気を引き裂いた。
「うああああっ!」
銃声が続く。混乱。群衆は広場の中央へと向き直った。血に濡れた短剣が薄明かりの下で光り、ある少女がためらいなく動いた。彼女は他の少女の胸に刃を突き刺し、押し倒した。
血が床に飛び散り、熱くて新鮮な匂いを放つ。叫び声はさらに高まった。
ヘンはその少女を見覚えた。最初にゲームが始まったとき、彼の目を見つめたあの娘だ。再び彼を見据え、冷たく計算した視線を向ける。だが今回はためらいがあった。ヘンが銃を持っていることを知っているのだ。
乾いた音がして――カチッ。
別の生存者、裂けたジャケットの背の高い少年が立ち上がり、銃を彼女に向けた。
「今がチャンスだ!」彼は叫んだ。
しかし発射は失敗した。弾は逸れ、短剣を持つ少女の腕を掠めた――それでも彼女は止まらない。素早く体をひねり、致命の精度で刃を放った。
短剣は空を切り、少年の喉に突き立った。彼は音も立てずに倒れた。
レナはヘンのそばで震え、彼の胸ぐらを握った。
「ヘン…どうすればいい? ここにいたら、私たちも殺される…」涙で目が潤んでいる。
ヘンは深く息を吸い、距離と床の死体を冷静に見渡した。混乱はあっという間に広がり、皆が互いを殺そうとしている。彼はレナを見て、ある案を思いついた。
「アイディアがある…」と低く言った。 「うまくいくかは分からないが」
レナはためらいながら見返す。
「どんな?」
ヘンはポケットからハンカチを取り出し、自分の手の血を少し拭った。
「その体の近くに寝ていろ」――指で横の遺体を示す。
彼女は目を見開き、困惑する。
「なに…? どうして?」
ヘンは答えずに、少量の血を彼女の顔に塗った。
「もし奴らがあなたが既に死んだと思えば、攻撃してこない。
で、俺は…誰も近づけさせないようにする」
「あなたは?」彼女はささやいた。
「俺は?」ヘンは緊張した笑みを見せた。 「俺は誰も近づけさせないようにしなきゃいけないだけだ」
レナは唾を飲み込み、温かい死体の間にうつぶせに横たわった。血の臭いが息を詰まらせる。ヘンは離れて廊下へ銃を向け、足音が近づくのを待った。
ヴァンパイアの声が再び歪んで笑った。
「素晴らしい…続けろ…ただ五人だけ…最も強い者だけを残せ…」
ヘンは歯を食いしばった。
(もし奴が“強さ”を見たいというなら…俺は生き延びるための“強さ”を見せてやる)
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