クラスに裏切られ、彼は今、美しい吸血鬼に導かれている
@MayonakaTsuki
第1話
テレビがノイズを立てていた。
冷たい青の画面が部屋の薄暗さを切り裂き、ザッピングの音が閉ざされた空間に響く。誰かが苛立ったようにチャンネルを変え続け、やがてニュース番組で手を止めた。
真剣な表情の女性リポーターがカメラを見つめている。
――「こんばんは。本日は番組を中断し、如月市の予備校で発生した事件について続報をお伝えします。現地当局によりますと、悲劇を生き延びたのはわずか五人の生徒だけとのことです。調査は続いていますが、二日が経過した今も原因は明らかになっていません。多くの遺族が説明を求めています…」
誰かが電源を切り、画面は暗転した。
金属のきしむ音が響く。
視点が切り替わり、鉄製の椅子に座る少年の姿が浮かび上がる。
彼は頭を垂れ、膝の上で手を組んでいた。髪の影に隠れて目は見えないが、張りつめた空気が部屋全体を支配していた。
年配の刑事が疲れた目で近づき、机に身を乗り出す。
――おい、坊主。年上が話してるときは顔を上げろ。
沈黙。
一切の反応なし。
刑事は壁際に立つ相棒と目を交わした。相棒は肩をすくめるだけだった。
――…こりゃ何も引き出せそうにないな。
それでも彼は少年に身を寄せ、ランプの光に浮かぶ皺を険しくした。
――最初からだ。二日前の夜、何があった? なぜお前たち五人だけが生き残ったんだ?
部屋を満たす低い音。泣き声でもため息でもない。――笑い声だった。
少年はゆっくりと顔を上げ、不気味に歪んだ笑みを見せた。
――五人? お前ら、本気で五人だと思ってるのか?
刑事の眉間に皺が寄る。
――大きな勘違いだ。とんでもないな。
少年は首をかしげ、ようやく刑事の目をまっすぐ見据えた。
――でも、そこまで聞きたいなら…話してやろう。あの夜、何が起きたのか。
その瞬間、部屋そのものが溶けていくかのようだった。まるで現実のテープが巻き戻されていくように。
二日前 ― 19時02分
【残り生存者:8,857】
赤い文字が空中に浮かび上がる。誰もそれを認識しない。――読者以外は。
Hen は小さな町の細い路地を急ぎ足で進んでいた。背中のリュックが重く、イヤホンから流れる音楽は車の騒音をかき消してくれるが、頭の中の焦りまでは消せなかった。
信号が赤になり、彼は角で足踏みしながら待つ。青になるや否や飛び出した。
車が猛スピードで通り抜け、足にかすった。
――うわっ! 危ねぇ…もうちょっとでミンチになるとこだった…!
心臓が跳ね上がり、彼は荒い呼吸を整えつつ笑い飛ばそうとした。
ふと見上げた空に、夕焼けが広がっていた。橙と赤に染まる雲は、まるで燃える炎のようだった。
「きれいな夕焼けの日は、いい日になるんだよ。」
祖母の言葉が脳裏に蘇る。微笑んだのも束の間、時計を見て顔色が変わった。
――やば…遅刻だ!
予備校の授業は19時開始。時計の針はすでに19時02分を示していた。
Hen は全力で駆け出した。人を避け、信号を無視し、段差につまずきそうになりながら。――遅刻すれば、門前払いと翌日の公開処刑。
如月市の予備校は厳格で有名だった。
だが幸運にも、門番たちは詰所でコーヒーを飲みながらスマホで試合を観ていた。
Hen はその隙に堂々と校門を通り抜ける。
教室に滑り込んだ瞬間、教師が説明を止め、鋭い目を彼に突きつけた。
――Hen。そんな大人になってどうする? 遅刻ばかりで。
――すみません…トイレに行ってて…。
――また嘘か。…座れ。もう十分時間を無駄にした。
Hen は縮こまり、窓際の孤立した席に腰を下ろした。
数時間後。
眠気に勝てず、彼は廊下へ出て顔を洗いに行った。
そこで――影を見た。
洗面所の鏡に映らない自分。点滅する蛍光灯。浮かび上がった「笑顔の落書き」。
背筋に冷たい汗が伝う。
――疲れてるだけだ…そうだろ…?
自分に言い聞かせても、監視されている感覚は消えなかった。
門番はコーヒーをすすりながら、携帯の画面に夢中だった。
――こんばんは、警備員さん。
顔を上げると、一人の少女が立っていた。
艶やかな黒髪、紅玉のような瞳。微笑みとともに差し出された手には――血。
――男たちに襲われかけました…。手を洗わせてください。
戸惑う警備員。
彼女はさらに甘美な声で囁いた。
――お願いです…。母に見られたくないんです…。
品のある仕草に、警備員は観念した。
――わかった。だが早く済ませろ。
少女は深く礼をし、門を通り抜けていく。
直後、背後で音。
振り返る間もなく、巨大な手が彼の顔を覆った。
――だ、誰だ…!?
冷たい囁き。
――俺たちは…来訪者だ。
乾いた音。首が折れた。
闇の中からもう一つの影が現れる。
――おい! すぐ殺すなよ! 遊ぶ前だったのに!
――安心しろ。夜はまだ始まったばかりだ。
少女は血に濡れた手を舐め、恍惚の笑みを浮かべる。
――ふふ…思ったより美味しかったわ。
再び赤いカウンターが浮かぶ。
【残り生存者:8,856】
そして――惨劇の幕が上がった。
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