第25話
「お前が魔王か」
玉座に座ってずっと待っていると、とうとうわたしの目の前まで勇者さんが勇ましい足取りで来てしまいました。どうしましょう。いえ、もう答えは決まっているはずですよね。そうですよね。
「は、はいっ! そういうことになってます!」
何事も第一印象が大切だとよく聞きますので、いつもよりもちょっと頑張って大きな声で返事をしてみました。
「こんな小さな娘が魔王とは、魔王軍も落ちぶれたものだな」
「えっと……まあ……そうですね……はい……」
わたしには何も反論ができないので、曖昧に頷くことしかできませんでした。
「……喋りすぎたな。俺はお前を斃す。ただそれだけだ」
喋りすぎたって言うほど、喋ってました……? なんて思っていると、勇者さんはメラメラと燃え盛る剣をわたしに向けて突き付けてきました。これが聖剣、フランベルジュなのでしょうか。そうですよね。これで他の剣ですって言われたらびっくりします。
「立て魔王。この聖剣フランベルジュが、お前の魂を焼き尽くす」
フランベルジュでよかったです。魂を焼き尽くすと言われると立ちたくなくなりますが、ここで立つことを拒否したら玉座とかを燃やされてしまいそうなので素直に立ち上がり、勇者さんと相対することにします。
「覚悟はいいか」
「なくても、斬るつもりなんですよね……?」
「当然だ」
じゃあなんで聞いてきたんですかと言う前に、勇者さんはわたしに向かってフランベルジュを構えて突進してきました。
「だったらわたしも、覚悟を決めさせてもらいますっ!」
あまりにも味が悪すぎる野菜で手に入れた力が勇者さん相手にどこまで通用するのかわかりませんが、もう後には引けないので全力で行かせていただきます!
「まずは……」
人参で鍛えた……じゃなくて、手に入れたウサギの如き跳躍力で剣を避け、カウンターとして頭上からの蹴りをお見舞いします。
「ラビットキック!」
「ぐ……!」
足が勇者さんの頭にぶつかった瞬間、勇者さんは呻き声を漏らしました。もしかしなくても、ちゃんとダメージを与えられてます……!?
「なかなかやるな……!」
「あ、ありがとうございますっ!」
思わずお礼を言ってしまいましたが、それくらい嬉しかったのです。だって今まで生きてきて、勇者さんに褒められる日が来るなんて夢にも思っていませんでしたから。
「敵に礼を言うとは、余裕綽々だな」
「す、すみません。油断大敵、ですよね」
「ふっ、まだまだ往くぞ!」
勇者さんはそういうと、フランベルジュを持っていない方の手から、四色の光の玉を浮かべ上がらせました。
「地水火風の精霊の力を受けよ! エレメントレイ!」
勇者さんがそう詠唱した瞬間、四つの玉がわたし目がけて物凄いスピードで飛んできました。
「で……デーモンパンチ!」
わたしも負けじとたった今思いついた技名を叫びながら、光の玉をパンチで迎え撃ちました。
「きゃあああああああ!」
ですが光の玉はわたしのパンチをいともたやすくかわすと、四方からわたしの身体を連続で弾き飛ばしました。
「効くだろう。精霊から直々に授けられた力だからな」
「はい……効きました……」
わたしはうずくまりながら、素直に答えました。明日になっても間違いなく消えないくらいの痛みが身体中を走ります。こんなことならもうすこし防御力を上げる野菜も食べておくんでした。
「終わりだ。魔王」
まあ、今更考えてももう遅いですが――。と、フランベルジュを構えた勇者さんが、わたしの首を撥ねようと構えました。
ですが、わたしは。
「終わりなのは、勇者さんのお仲間さんだと思います……よ?」
勇者さんの背後を見て、そう言ったのでした。
「お待たせいたしました。魔王様」
最深部へと現れたスリマ様がそう言って見せたのは――。
「な……!」
勇者さんが言葉を失うのもわかります。だって、それは。
「ミミア! プラント! アメス!」
血を流して倒れている、勇者さんのお仲間の皆さんだったのですから。
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