第17話
元魔王様とともにそれから斧を探してみたものの、結局どこにあるのかわからなくなってしまっていたのであの木を切るのは断念しました。
「どの面下げて戻って来たんですか」
そうして今は最深部の玉座に座り直し、元魔王様をスリマ様と一緒に少し高い段差の上から見下ろしています。元魔王様はいつもこういう視点でわたしたちを見ていたんですね。わたしは今まであんまり魔王城に来ることはなかったですけど。ところで隣にいるスリマ様が元魔王様を見る目がなんだかとっても怖いのですけれども大丈夫なのでしょうか。もしわたしがこんな目で見られたら失神しちゃいそうです。
「頭が高い。朕は偉大なる魔王であるぞ」
ですが元魔王様は怯む様子などを一切見せず、平然と言葉を返しました。
「今の魔王はロベリア様です。あなたではありませんよ、おじさん」
「すみませんでした」
ですがスリマ様にそう指摘されると土下座してきました。動きに一切の無駄が無い、綺麗な土下座でした。
「魔王軍を崩壊させておいて、貴殿は優雅にバカンスですか。いいご身分ですね」
「だ、だって朕は魔王だし……」
「ですから魔王はロベリア様です。今のあなたはただの魔族のおじさんですよ」
「すみませんでした」
元魔王様がスリマ様に詰められています。どうしましょうと思っている間にも、スリマ様は言葉を続けていきます。
「第一そんなに魔王でいたかったのなら、引退なんてせずに腰痛だろうが何だろうが居続ければ良かったでしょうに」
「……腰を痛めている魔王なんて存在しないだろう」
「違います。存在しない、のではなく存在していなかった、のですよ」
「どういうことだ」
「貴殿が最初の腰痛魔王となればよかったのです」
「……腰痛持ちでもダサくないだろうか」
なんかその発言がダサい気がしましたが、黙っておきます。
「貴殿の振る舞い次第でしょうね」
「なるほど。ではロベリアよ――」
元魔王様はキリッと向き直り、わたしに指をさしてきました。やっぱり玉座を返えしてくれとでも言うのでしょうか。まあ、元々わたしに魔王が務まるなんて正直今でも思ってないですし、別にいいですけど……。
「後は任せた」
しかし元魔王様は、わたしにサムズアップをすると、踵を返して全速力で出口へと走り去っていってしまいました。
……腰を抑えながら情けなく走る後ろ姿は、とんでもなくダサかったです。
「待ちなさい」
「ひぎぃ」
しかし目にも止まらぬ速さで動いたスリマ様にあっさりと襟元を掴まれ、情けない悲鳴を出して止まりました。
「魔王軍を壊滅させた責任、負って頂きますよ」
「だ、だが朕の暴走を止めなかったそなたにも責任が――!」
暴走って認めた上に責任転嫁しだしました。ダサいです。
「私は魔王の指示に従うことを使命としております」
「……そうか。では跪いて『ご主人様、頭をなでなでしてほしいニャン♡』と言って見よ」
「今の貴方はただのおじさんですから、従う必要はありませんね」
元魔王様の気持ち悪い頼みを、スリマ様は無表情のままあっさりとあしらいました。
……そろそろ、わたしもおじさん呼ばわりしてもいいですかね。
「ではロベリア、代わりに頼む」
この人スリマ様がダメだったからってわたしに振ってきましたよ。
「あの……今の魔王はわたしなので……やるなら、その……おじさんがやってくれたらな、と……」
「ご主人様、頭をなでなでしてほしいニャン♡」
本当にやりましたよこのおじさん。
「……需要はあるのか、これ」
ないでしょうねと、わたしは首を横に振りました。
「で、責任を取るといっても、何をすればよいのだ」
「勇者一行と戦うのです。魔王と思ったらただのおじさんだったという展開は相手の意表を突けることでしょう」
更に真の魔王が実はただの最弱魔族だったという二段構えがありますね。構えた先に何があるのかはわたしにもわかりません。
「…………いいだろう。幸いバカンスのお陰で腰痛も和らいだ。それに――」
おじさんは指を空に向けると、指先からどす黒い闇のビームを放ちました。遠くで何かが砕けた音がしたかと思っていると、天井から砕けた屋根の破片が私の目の前にパラパラと落ちてきました。どうしてみなさんこうも何かを破壊するパフォーマンスをやりたがるのでしょうか。後始末のこととかは考えているのでしょうか。少なくともこのおじさんは考えていないでしょうね。
「朕は魔王だ。故に勇者には負けるわけにはいかない」
「今の魔王はロベリア様で、今の貴殿はおじさんですよ」
「最近の若い者に負けるわけにはいかない」
おじさんが酒場で愚痴っていそうなめんどくさいおじさんみたいなことを言った途端「いてっ」破片がおじさんの頭を直撃しました。
……魔王城もとうとう、おじさんを見下し始めてしまったようでした。
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