第10話

「……ここの生徒じゃないみたいだけど、あんたたち一体誰なの?」

「あぅ……」


 赤い髪の方に睨まれてしまい、言葉に詰まってしまいます。『朕は魔王であるぞ!』なんて言っても信じてもらえない、というか最悪捕まりそうなので言えませんし……。


 どうしましょうと、隣にいるスリマ様に目線で訴えかけます。


「実は我々は魔王軍の者でして。貴方様には是非魔王城までご同行頂きたく参りました」


 するとスリマ様は正体を一切包み隠そうともせず、率直すぎる物言いをしてしまいました。さっきまでパンプキンがどうこう言ってたじゃないですか!


「ここは正直に言った方が従順にしやすいのですよ」


 と、わたしの考えを読み取ったのかスリマ様が小声でそう囁いてきました。本当に大丈夫なのでしょうか。なんだか周囲の視線がこちらに向けられている気がしないでもないのですけれども、確かめるのも怖いので顔を動かせません。


「あんたらが魔王軍? 悪いけど馬鹿に付き合っていられるほどあたし、暇じゃないから」

「ほう……我々を馬鹿と侮辱なさいますか」

「あんただけだけど。そっちの小さいのはまだ馬鹿かどうかわかんないし」

「ほう……ほう……ほう……」


 馬鹿と言われてスリマ様がフクロウみたいになってしまいました。若干額に青筋も立っています。


「いいでしょう……。私を嘲るというのでしたら、少々強引な手段を使わせていただきましょう……」


 あの、えっと、なんかめちゃくちゃ怖い顔してますけれど、何するつもりですか……?


 と、わたしが思っているとスリマ様は赤髪の方が座っていたベンチごと持ち上げました。


「さあ戻りましょう魔王様。この者は北の小国、スノードロップ王国の第一王女、リラ・ベルティーユ殿でございます。この方を誘拐すればきっと勇者も義憤に駆られることでしょう」


 そしてそのまま、赤髪の方が乗ったままのベンチをいとも簡単そうに肩に乗せながらわたしに言ってきました。さすが総大将、力持ちで羨ましいです。


「だ、第一王女……なんですか……!?」

「あ、あんた魔王なの!?」


 リラさん、と言うらしい赤髪の方に尋ねてみましたが何ともまあ、回答に困る返事が返ってきました。


「一応、そうなりました……」


 朕こそは魔王であるぞ! なんて言えればどれほどよかったでしょう。いつかそう胸を張って言える日は果たしてくるのでしょうか。


「一応って何なの!?」

「一応は……一応です」


 ですが今は、おどおどしながら一応そうですとしか言えないのでした。


「どういうことなの!? ていうかちょっと降ろしなさいよ!」

「お断りいたします」

「はぁ!? あんた自分が今何やってるのかわかってるの!?」

「わかっていますよ」

「だったら早く降ろしなさいよ!」

「お断りいたします」

「だ――」

「お断りいたします」

「まだ何も言ってないでしょ!?」


 こうしてスリマ様がベンチの手すりにしがみつきながら早口で怒っているリラさんの頼みをきっぱりと否定しながら敷地の外へと全速力で走り去ろうとしている背中を、わたしもわたしなりの全速力で追いかけたのでした。


 それにしても魔王って、こんなに歩くものだったんですね……。


 魔王城に帰ったら、筋肉痛になりそうです。

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